【怪異譚】サイレン
最近、ニュースなどを見ていると”視聴者提供”という文字をよく目にする。災害やら、事故など、視聴者提供の写真、動画などは多い。
SNSが浸透している現在、視聴者はすぐに発信者になりえる。
彼らの多くは、金銭的な報酬など期待している者は少ない。話題になりたくて、それらの写真、動画などを撮影しては、アップしている。
山形県在住の高校生、本庄さんもそんな一人だった。
私立の平均的な高校生の本庄さんだったが、自分が撮影した動画がキッカケで、そこそこ地元では有名になった。
帰宅途中、土手の桜の花が散っている様子がきれいだったので投稿しようと撮影していたら、ブレーキとアクセルを勘違いした車が、その桜の木にぶつかった。そんな映像だ。
その映像は地元のテレビで放送され、本庄さんは高校で有名人となった。そんなことがあってから、本庄さんは、ことあるごとに、何か話題になりそうなものがあればと積極的に探し、SNSに投稿していた。
ある日の昼過ぎ、本庄さんがいつも通りに話題を探していると、けたたましく救急車、消防車のサイレンの音が聞こえた。方向からどうやら駅前の方のようだと、フラフラと駅の方へと足を向けた。
土地勘もある本庄さんなので、駅へ向かう路地裏の近道も知っていた。
あれよ、あれよという間にサイレンの数は増えているようで、これはよほど大きな事件だろうと、期待しながら早足で駅へと向かった。
サイレンの音は大きくなってきた、気のせいか、人の悲鳴のような音も聞こえる。
さぁ、この角を曲がれば、駅までは一本道だ、と角を曲がると。
そこには、誰もいなかった。いや、駅前ですらなかった。
さっきまで、あれほど鳴っていたサイレンの音も聞こえない。気づくと雑木林の落ち葉を踏みしめていた。
何が起こったかと思い、辺りをもう1度見回すと、遠くの方に人影があったので、慌ててそちらの方へ向かった。
たどり着いたその人影の主の初老の男性は本庄さんを見て、ひどく驚いていた。
「お前さんは、どうして、ここにいるのだ」と。
驚くのは本庄さんの方だ。
「ここはどこですか?」と聞いたら、本庄さんが向かっていた駅とは100キロ以上も離れた田舎の山村だったのだから。
さらには時間にして5分くらいの出来事と思っていたら、何時間も過ぎており、昼過ぎの出来ごとのはずが、辺りは真夜中だった。
先ほどまでは鳴ることもなかったスマホに、何件もの着信があった。
慌てて、自宅に電話をかけ、迎えに来てもらった親にはこっぴどく叱られた。
が、一番困惑していたのは本庄さんだということは言うまでもない。
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