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【怪異譚】メリーゴーランド
現在は、会社を定年退職して、年金生活をしている皆川さんから聞いた話である。
まだ、バブル全盛期の1980年代後半、皆川さんは、アンティーク家具の輸入販売などをしていたのだが、ある時、家具の業者から奇妙な相談を持ち掛けられた。
遊園地、もしくは子供の遊び場のようなところを知らないかと。
困惑した顔の皆川さんに気付いたのか、業者は1枚の写真を皆川さんに見せた。
それを見た途端に、皆川さんは激しく興奮した。
美しすぎる!と。
写真の中には、小型のメリーゴーランドが写っていた。と言っても、非常に小さなもので馬車が1台と馬が3騎だけだ。
ただ、造形が非常に美しい。
それは、写真で見ただけでも、かなり精巧に作られていた。また、装飾で描かれた紋様、絵画も豪華で、数々のアンティーク家具を見てきた皆川さんの目から見ても、明らかにそれは桁違いの芸術品であった。
業者の話では、とある貴族の館に伝わっていたものだそうだが、貴族が没落し、競売にかけられた、と。
芸術品と思えば、非常にお得な品であったが、モノがモノだけにどこに売ればよいか分からないということで皆川さんに相談したのだった。
皆川さんの方でも、少々扱いに困ったが、そこはバブルの時代、モノ好きな地方の百貨店が、話題づくりのためにと、奮発して購入。
実際にお客さんを乗せたりもしていて、好評であったそうだ。
ところが導入から1か月も経たずに、皆川さんの所にクレームが来た。
あのメリーゴーランドに乗ったお客さんが熱を出したり、気持ち悪くなったりするのだが、もしかしたらいわくつきの物件じゃないか、と。
それを聞いた皆川さん、驚きはしたが、思い当たるところもあった。
皆川さんの方でも、そのメリーゴーランドを納入して、2日ほどの間、倦怠感と筋肉痛が続いた。
身体の調子が悪かっただけと思ったが、確かにあのメリーゴーランドを納入した後だ。
慌てて、皆川さんに紹介した業者に問い合わせをした。
何か、メリーゴーランドに異常はないか、と。
業者の話では、普通にオークションに出されたものであるから、問題は無いと思う。
特に貴族に関しても、悪い話は聞いてないとの答えだった。
とは言われても、やはりそういう噂が立つと面倒だからと百貨店の方でも、展示をすぐに止めたという。念のため、懇意にしている寺院にお祓いもしてもらったとか。(西洋のそういう類にも、仏教のお祓いが効果があるのかどうかは分からないが、と皆川さんは笑いながら言っていた。)
その後、その百貨店もバブル崩壊とともに倒産し、メリーゴーランドもどこへ行ったか分からないという。
皆川さんは、あの当時は、そんなことを考えたりもしなかったが、2010年頃、テレビで放映されていたチェルノブイリ原発事故跡地のところにある廃墟遊園地を見たとき、もしかしたら、元の持ち主は貴族などではなく・・・などということを考えたりもしたそうだ。
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