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市民が助かる減災

 今年は、市民が助かる減災のために、行政に加えて社会福祉協議会、自治会などの地縁団体、地域資源としての宗教施設、企業、学校、防災士、宗教者など多様な方々と連携して、未来共生災害救援マップ(災救マップ)の社会実装をより一層進めます。多様性によるイノベーションです。
 未来の共生は、地域住民が主体で、地域住民のためのもので、行政の仕事の効率化、合理化のためではありません。避難所を開設運営し、時々刻々と変わる避難所の状況を役所の対策本部および市民に通知する、これらをすべて市職員だけで対応するのは非現実的な机上の空論です。ある市長が「調査をしたら、大災害発生時に市職員の3割が役所に来れないと分かった」とおっしゃいました。大災害時には市職員も被災したり、道路が寸断されたりして避難所まで行くことができないという事態を想定しての備え、連携の仕組みが必要です。

文書名災救マップ概要資料20220101

 大阪大学では、社会ソリューションイニシアティブの基幹プロジェクト「地域資源とITによる減災・見守りシステムの構築」を中心に、一般社団法人地域情報共創センター、日本災害救援ボランティアネットワーク、全国自治会活動支援ネット、宗教者災害支援連絡会などと連携して災害時の対応を進めてきました。昨年の秋以降は大阪大学情報科学研究科の山口弘純教授をはじめとする工学・情報系の専門家とも連携しています。

 分散避難の必要性から避難所情報共有システム「災救マップ」を2021年7月にリニューアル、自治体へ導入と並行してヒアリングをもとに改良を続けています。

未来共生災害救援マップ(災救マップ)
https://map.respect-relief.net/

 緊急事態宣言が解除された2021年10月中旬ころから12月下旬にかけて、県知事、市長、副市長、町長ら7名を含めて30ほどのの自治体に実際に訪問し、ヒアリングと避難所の調査をしました。ある市役所では、市長と防災担当者から寺社を避難所活用するメリットは何かと質問され、これまで経験や調査結果などの根拠をもとに説明すると、「良くわかりました。早速、寺社等と連携できるように動きます」とのこと。

「足腰が弱っているので、災害時に遠くの避難所、小学校まで逃げるのは無理。近くにある神社の境内に避難する。」
「低い土地、川の近くを通って小学校まで逃げるのは怖い。高台にあるお寺に逃げる。」
「昔から、地震の時には広い境内のある神社に避難している。」

このような地域住民の声をもとに、自治体が寺社等に協力を求めて、寺社等が緊急避難場所や避難所に指定されている地域もあります。

 上記のヒアリングに加えて、東日本大震災、熊本地震、西日本豪雨、関東豪雨、九州豪雨などの被災地で避難所や災害ボランティアセンターで支援活動および情報収集を行ってきました。また、社会福祉協議会、自主防災組織、地域の指定避難所・緊急避難場所となっている寺社等でヒアリングを続けています。

 災救マップ地域住民が助かる減災の取り組みの一助になります。防災士をはじめ自主防災組織の地域住民などが避難所情報を災救マップで共有すれば、避難所配備要員(市職員)および避難所情報入力者の業務負荷も軽減できます。そのために、連携協議、研修会、災救マップを活用した防災訓練が必要です。大事なことはだいたい面倒なこと、新たな取り組みはしたくない、しないというのが世の常ですが、ここはチャレンジです。よろしくお願いいたします。

稲場圭信
大阪大学大学院教授(人間科学研究科・共生学)
大阪大学社会ソリューションイニシアティブ(SSI)基幹プロジェクト「地域資源とITによる減災・見守りシステムの構築」代表
一般社団法人地域情報共創センター(RICCC)顧問


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