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指定避難所27%が被災の恐れ。複合災害への備え~宗教施設と連携、分散避難を

 令和2年7月豪雨災害発生から1か月になります。猛暑の中、限られた人手で泥だしなどの復旧作業が進められています。このような大変な状況が続く中に、もう勘弁して欲しいという方が多いでしょうが、昨年の台風被害を思い出し、台風への備え、そして地震への備えも進める必要があります。

 そのような中、ショッキングな数字が出ました。日経新聞の調べによると、全国にある指定避難所のうち27%が浸水や土砂崩れの危険のある場所に立地していることが分かりました(2020年8月2日)。

 上記の日経新聞の記事の中で、片田敏孝先生(東大特任教授、災害社会工学)は、「民間施設の活用など、住民が主体となって避難場所を確保する取り組みが欠かせない」と指摘しています。

 小学校だから安全だ、という判断ではなく、自分の住んでいる地域をよく知って、地域の皆で地域防災を考える必要があります。災害対応における民間施設の活用では、寺社等宗教施設も含まれます。2020年7月17日には、長野市の7寺院が長野市と災害時の避難所の協定を締結しています。

 上記の信濃毎日新聞の記事によると、協定を締結した安養寺の服部淳一住職は、昨年、2019年の台風19号で被災した檀家から、当時被災時に避難所に入れなかったと聞き、「高齢の家族がいると大変。身近な話として受け取っていた」と話しています。また、同じく協定を締結した常然寺は42畳ある庫裏の畳広間を災害時に開放する計画とのこと。常然寺の山野井住職の言葉として、以下が紹介されています。「畳の上で自宅にいるような形で過ごしてもらえれば、多少なりともストレスが軽減されるのではないか
(信濃毎日新聞、2020年7月18日)

 今、全国で避難所の数が足りないことも指摘されています。この長野市のケースでは、地域住民、檀家の要望があり、寺院が避難所となりました。あまり知られていませんが、全国には、避難所や緊急避難場所に指定されている宗教施設が多数あります。

 地域住民の声で行政が宗教施設と災害協定を締結した事例もあれば、行政ではなく、地域の自主防災組織あるいは自治会と宗教施設が協定を締結した事例もあります。

地域での備える
 市町村は災害時対応のために複数の拠点を設け、指定避難所における備蓄品管理および防災倉庫の体制を備える必要があります。同じ地域の避難所および宗教施設で、水・食料の備蓄品の消費期限を1年ごとにずらして設定し、消費期限が近づいたらフードバンクなどへ寄付する、あるいは、地域で防災イベントを開催し、皆で食べる。そして、また新しい備蓄品を購入するといったサイクルの仕組みを地域で構築することを私は提唱してきました。

 時代ごとに、さまざまな連携をして日本社会は災害へのそなえをしてきました。そこには個人だけでなく、地域での支えあいの考え方があります。互助です。個人ではなく、地域で防災を考え、備蓄をすることは、地域コミュニティのつながりを作り出すことにもなります。

 宗教施設は、地域の集いの場でもあり、地域の高齢者の見守り、子育て支援とも親和的です。防災の取り組みは、新たなコミュニティの構築であり、大災害時のみならず、日常の新たな「縁づくり」とも言えましょう(ソーシャル・キャピタルの醸成)。

 令和の時代、残念ながら南海トラフ巨大地震や首都直下巨大地震が発生する可能性は極めて高いです。政府の中央防災会議は2019年5月31日、南海トラフ巨大地震の「防災対策推進基本計画」を修正し、約三二万人としていた死者数は、住民意識や耐震化率の向上により約三割減の二三万人との推計を示しました。しかし、このような大災害が発生すれば行政の力だけでは足りません。宗教施設と行政、社会福祉協議会、地域の連携の輪は今後も広がっていくでしょう。もちろん、宗教施設は宗教としての目的があります。宗教施設には、聖なるもの、また、文化財もあります。その点も踏まえ、協定書に境内や駐車場などの開放する場所を明記した上で、庫裡や聖なる空間、そして文化財のあるスペースは立ち入り禁止とし、部分的に開放するのも一案です。

 宗教施設が避難所や仮遺体安置所となった際には、自治体が光熱費や食糧の費用を弁済する場合もあります。市町村、宗教施設のおかれている状況によって協定の内容は異なります。災害時の取り組み内容を検討してから、自治体との手続きを進めることが肝要です。また、災害時に宗教者、施設管理者がすべてをすることはできません。管理者が不在で、家族だけの時に大災害が発生することも想定し、地域の避難者が、避難所の運営をサポートできる体制を平常時から整えておくことも一つの方法です。

地域資源としての宗教
 人々のつながりが弱体化した社会において、あらたなつながりを作り出すために、近年、宗教施設が宗教関係外にも活動を広げながら、地域の中心で学びや福祉の場として、また地域をつなぐ拠点としてあらたな機能をもった存在へと変化した事例があります。たとえば、宗教施設の境内でのカフェ、高齢者向けの朗読会、子育て支援の集い、また婚活イベントの開催といった地域社会に溶け込んだ形での活動の事例があります。人々の集まる場として地域住民のつながりの維持や新しいつながりの創出に取り組んでいる宗教施設が、平常時のみならず非常時においても、大きな力を発揮するでしょう。

 被災地で緊急避難所、活動拠点として機能した宗教施設の多くが、日頃から地域社会に開かれた存在でした。宗教者が、平常時から自治体の町作り協議会や社会福祉課、防災課と連携しているところは災害時に連携の力を発揮しました。祭、現代版寺子屋などに加え、NPOやボーイスカウトなど、さまざまな社会的アクターと連携した地域ぐるみの日ごろからの取り組みが、いざという時に地域住民の助かり、互助につながります。まさに、宗教施設を地域資源とした地域福祉です。

 やれ地域創生、やれ観光資源がうんぬんという声もありますが、それにも取り組みつつ、地道な安心安全の地域づくりが大切です。災害への備えの取り組みは地域を強くします(レジリエンス)。完璧な仕組みはどこにもないでしょう。まず、一人ひとりができることに取り組む。一歩前進です。


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