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宗教施設が自治体と災害協定を結ぶ際の留意

遺体の一時安置所における枕経等の読経

 愛知県岡崎市が市仏教会と「災害時における被災者支援活動の協力に関する協定」を締結しています。災害時に必要が生じたときに、岡崎市が市仏教会に要請する協力事項のひとつに「遺体の一時安置所における枕経等の読経」があります。驚かれる人も多いのではないでしょうか。
 協力要請の内容の第一は「被災者及び帰宅困難者を一時的に受け入れることを目的とした、災害時協力避難場所としての場所の提供」です。協力要請に「遺体の一時安置所における枕経等の読経」があるのは協定としては特殊な例ですが、寺院や仏教会が自治体から災害時協力を要請されたり、避難所や緊急避難場所に指定されたりすることが増えています。なぜなのでしょうか。

 10頁にわたる本稿では、これまでの取り組みの進捗とその実態、そして、災害協定締結の際に必要なことを確認しています。ここでは一部抜粋編集して公開しています(『月刊住職』発行人の許可を頂いています)。全文は以下をお読みください。

稲場圭信(2022)「重要集中講座:寺院の災害避難所をめぐる問題提起」『月刊住職』2022年6月号、pp.42-51.

協定の締結にむけて

 密をさけるために災害対応として分散避難が推奨されましたが、全国で避難所が不足していることが判明しました。

 その対応として自治体が宗教施設と災害時協定を結ぶという動きが加速化しています。

 では、自治体と宗教施設の災害時協力に関する協定書にいれるべき内容は何でしょうか。

協定の目的

 協定の目的は、災害時の一時避難施設(本堂、駐車場、境内など)の提供、備蓄物資倉庫の場所の提供、車両待避所の提供、帰宅困難者の受け入れ場所の提供、遺体の一時安置所としての場所の提供、あるいは井戸水の提供なども含まれます。すべてを提供するのではなく、可能な内容を自治体と検討して明記します。本堂の耐震が心配であれば、駐車場のみ災害時に提供ということもあります。自治体が指定する小学校体育館などの避難所には入るのが困難な障害のある方や高齢者が一時避難できる場所を寺院が提供するという取り組みもあります。

具体的な留意点

 施設の破損に対する対応も明記すとよいでしょう。例えば、以下のような文言をいれます。

「甲(〇〇市)は、施設使用時は、施設及び備品等の保安に努めるものとする。」
「甲(〇〇市)は、施設使用後、乙(〇〇寺)の立ち合いのもと、施設の破損等について確認するものとし、その結果、乙からの指摘事項については、速やかに必要な措置を講じなければならない。」

 避難所の管理責任、災害補償についても実際に以下のように明記されている協定書もあります。

「乙(○○寺)は、地域住民等が施設に避難した際に発生した避難所等の運営管理に係る事故等の責任を負わないものとする。」
「甲(〇〇市)の要請に基づき第〇条に定める支援に従事した乙(〇〇寺)の従業員(乙の依頼により従事した者を含む。)が負傷等した場合は、防災の義務に従事した者の災害補償に関する条例(〇〇市条例第〇号)の規定に基づき、甲が補償するものとする。」

 災害時に避難所として協力した場合の費用負担に関しては、行政が負担する場合と受け入れた寺院が負担する場合があります。以下のように記載している事例があります。

「甲(〇〇市)は、避難所施設の管理運営に係る一切の費用を負担するものとする。」
「甲(〇〇市)の支援要請に応じるため乙(〇〇寺)が要した費用は、甲が負担する。」

率先避難 ”災害時の敵は自分の心”

 宗教施設が災害時に危険なところ、ハザードマップにある浸水被害や土砂災害が想定されるような地域にある場合にはどうしたらよいのでしょうか。そのような寺院は、まず住職や宗教施設管理者が率先避難をするということも大切な災害時協力です。住職が檀家や地域の人たちに「この豪雨で警報がでている。寺も危ないから、これから避難する。皆さんも避難してください」と声をかけながら小学校等の指定避難所に避難をする。その率先避難行動が檀家や地域の人たちの命を守ることになります。
 災害時の行動における留意点としては、「正常性バイアス」と「認知的不協和」があります。正常性バイアスは災害リスクが迫っていても自分は大丈夫と思いこもうとする心の働きで、認知的不協和は「避難行動をする必要性がある」ことと「避難行動していない自分」の矛盾、不協和の状態で、不協和を低減するためにこの程度ならば大丈夫と行動しない自分を正当化して心の安定を保とうとします(片田敏孝著『ハザードマップで防災まちづくり』東京法令出版 )。

 そのような心の働きを、「災害時の敵は自分の心」と平時に確認し、いざという時に避難行動を取れるようにしておきます。

今後の課題

 今後の課題としては、受け入れ可能な宗教施設と市区町村が災害時協定を進めて行くことに加えて、個々の宗教施設の耐震化や備蓄品の配備と災害を想定した計画・マニュアルの作成があげられます。災害時に行政担当者が避難所に行けないと想定しての備え、すなわち、自主防災組織等地域住民、防災士やボランティアと連携しながら宗教施設の避難所運営をする、そのための日ごろからの関係づくりも必要です。たとえば、寺院で、カフェ、子どもの見守り、高齢者向けの健康相談会などの取り組みです。人々の集まる場として地域住民のつながりの維持や新しいつながりの創出に取り組んでいる寺院が、平常時のみならず非常時においても力を発揮するでことでしょう。


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