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「未利用野菜」で作るケーキ

伝承野菜農家 森の家の「甚五右エ門芋」と出会ったのは9月のこと。その時のお話はこちらの記事にまとめましたが、

その時に驚いたのが、甚五右エ門芋の中でもいちばん大きな「親芋」という部分は、出荷先がなく処分されているという話でした。

ここが親芋。外皮をむいて茹でて食べます

とろりとした柔らかい食感の子芋や孫芋に比べると、親芋は確かに硬く、
そのため同じ甚五右エ門芋として販路を作るのは難しく、消費する手段がないそうです。

火を通した親芋を切ったもの

けれどこの親芋、同様に茹でて食べさせて頂いたのですが、とても美味しい。もちろん小芋や孫芋のとろっとした食感も絶品ですが、個人的には、私は親芋の硬さがむしろ好き。

適度に水分が少ないほくほくした栗のような食感で、里芋とも違う、食べたことのない風味。ひと口で好みだと思いました。

ちょうど夏のトマトケーキが終わり、次のケーキを考えていた頃。

最初はキャロットケーキを焼こうと考えていましたが、すでにおいしいお店が世の中にはたくさんあるから、doyoubiとして他の野菜のケーキが作りたい。

ならば何のケーキを作ろうかとイメージしていたうちのひとつが里芋でした。

そんなタイミングで出会った甚五右エ門芋と、処分されている親芋の話。作らないわけにはいきませんでした。

里芋のケーキができるまで

そうしてできたのが、親芋と焦がしねぎ ゆず味噌クリームチーズのケーキ。

トマトケーキと同様に、それぞれの具材が合わさることで
ケーキというよりひとつの料理になるようなイメージで作りました。

里芋は滋味深い味なので、ケーキにすると単調になりすぎるのが難点。

けれどそこに強い味のスパイスや具材を加えては里芋の味が消えてしまうので、あくまで甚五右衛門芋のおいしさを知ってもらうケーキにするために、シンプルながら引き立つような食材だけを考えました。浮かんだのがねぎ。

はじめは刻んだねぎを入れていましたが、味はいいものの食感が少し寂しく、ケーキとして食べていて楽しいように大きめに切ったねぎを焦がし炒めて加えることに。

それから仕上げのすりごまも大切な存在。

過剰でなく必要な食材だけを加えたケーキにしたかったので、できるだけ引き算しつつ具材を足して作っていきました。

私が店で並べる季節のケーキの理想は強いインパクトや甘さではありません。

doyoubiのマフィンやスコーンは日々メニューが変わるけれど、ケーキだけは一定の期間常に店に並ぶもの。なので強い個性はなく、どんな日にも寄り添う味がいいと思っています。

けれどちゃんと面白い味がしていて、食べたときに小さな驚きがあってほしい。

滋味だけれど不思議な引力のあるケーキにしたく、今回の里芋も、そんなケーキに仕上げたつもりです。

未利用野菜の可能性

そして今回、可能性を感じたのは
「親芋」という処分されていた食材をケーキにしたこと。

「未利用野菜」と呼ばれる、収穫できず廃棄されてしまう野菜が、どの農家さんにも一定数存在していることを知りました。

規格外の大きさや傷のついた野菜をはじめ、今回のように、農家さんがそもそも販売できるものではないと判断し、食べられる部分でありながら、処分されている食材もあるそう。

そこを適正な価格で買い取って、マフィンとして美味しく活用できたら面白いのではないかと思っています。

むしろ今まで食べられる機会がなかった未利用野菜だからこそ、初めての味わいがあり、マフィンに混ぜ込むことで想像以上の美味しいものが作れるかも。

なんらかの事情で、世の中に食べられず処分されている知らない食材があるのなら、全部マフィンにしてみたい。

私自身も楽しく、それを提供するお客さんにも楽しんでいただけて、微力ながら農家さんの応援になれたなら一番に嬉しいことです。

全国のおいしい野菜を作る農家さんに、未利用野菜を買い取らせて頂けないかというのが今の関心です。

【写真】志鎌康平さん

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