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仕事始めに「いやだな~」と思ったら

明日から仕事。いやだなぁ〜と思う。もっと家でゆっくりしていたいなぁ~。こたつの中でごろごろしていると、ふと昔の記憶が蘇る。あるお金持ちに聞いた話だ。


当時、彼はまだ20代後半。見た目は普通のお兄ちゃん。清潔感はあるが、よれたジャケットにジーンズ、少し汚れたスニーカー。どこか野暮ったく垢抜けしていない印象があった。しかし、年収5000万円を超える、お金にも時間にも余裕がある、いわゆる成功者だった。

「ずーっと好きなことだけをして暮らしたらどうなるだろう?」

あるとき彼の頭に疑問がよぎる。思い立ったが吉日だ。さっそくサーフボードを車に押し込み、ひたすら日本中を旅することにした。

当時はカーナビない、スマホもない、インスタグラムは何者だ?という「吉幾三」的な世界観。頼りになるのは「るるぶ」のみ。

知り合いの家に泊めてもらったり、ふらっと立ち寄った定食屋のおばちゃんにおすすめの宿や観光スポットを教えてもらう。

その日の気分で行く場所を決め、波がいい日は近くの海へ。日が沈むまでサーフィンをする。

誰にも何にも縛られない、終わりのない夏休み。最高の気分だ。そう、3ヶ月を過ぎるあたりまでは。

「なんか……違う……」

ある日、強烈な違和感を覚える。その時の気持ちを、彼は僕にこう教えてくれた。

「あのね、なんかこう、ゴムが伸びきってデローンってなった感じ。わかる?心がもうね、ユルユルになって、なんの張りもなく、デロンデロンのデローンって。なーんにもやる気がなくなっちゃって」

結局、終わりのない夏休みはたった3ヶ月でフィニッシュ。彼はまた仕事をする日々に戻っていった。

この時の僕はわからなかった。もう仕事をしなくても生きていけるのに、なぜまた働く道を選ぶのか?

今ならわかる。人は刺激がないと生きていけないということを。刺激のない人生はワサビのないお寿司みたいなもんだ。味気ない。


刺激には2種類ある。ひとつは、「新たなる刺激」。例えば、欲しかったものを買う。新しい趣味にチャレンジする。初めての場所に行く。など。

これはどちらかというと「ポジティブな刺激」だ。しかし、限界がある。だんだん物足りなくなる。再生回数を伸ばしたい炎上系ユーチューバーみたく、徐々にエスカレートしていく傾向にある。場合によってはお金もかかるし、人によっては疲れ果てるかも知れない。

もうひとつの刺激。それは「ストレス」だ。僕の知り合いに電気工事関係の仕事をしている人がいる。彼は、暗くて狭くて汚い屋根裏のような所に入って作業をする。ネズミの死骸やヘビもいる。臭い、息苦しい。

でも、作業が終わり、外に出てきたときの爽快感は、言葉では表現できないほど至福の瞬間だという。

「こんなにも空気がうまいとは知らなかった」

太陽ってありがたい。深呼吸ってこんなに気持ちいいんだ。真っ直ぐに立って歩けるって幸せなことなんだ。

人はすぐに慣れる生き物。あまりにも身近に存在する有難さなんて、忘れてしまうというか、最初から気が付かない。そう、魚が海水の存在を認識できないように。


身の回りに溢れている「ありがたい」に簡単に気付く方法、それがストレスという刺激。

「仕事がいやだな~」というストレスは、実は年末年始に家族で過ごした幸せな時間を思い出させてくれる、ちょっとした刺激、仕掛けなのである。


さあて、今年もまた、頑張りますか。

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