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「蒸日」

それは、あの日の一年前のお話

 海の向こうの水平線、曖昧に境界を塗り潰す薄雲が張った、蒸し風呂みたいな真夏日だった。

 二年の先輩が死んだ、らしい。

 地域の噂に聡い母親が、英国のEU離脱の話と共に教えてくれた。
 僕は殆ど関心がなかった。他人の生死なんて、トーストの格子模様をピーナッツクリームで塗り潰してる、この瞬間にも繰り返されて、一々数えていたらキリがない。だから仮に僕が死んだとして、他人に悼まれる筋合いもない。
「蒔白知ってる?霧星さんって方なんだって」
 僕は母親に目を合わせないようにして、何でもない風を装い、「知らない」と応えた。
 トーストは口内の水分をまるっきり吸ってしまって、蛞蝓みたいに重たく徐行した。牛乳で流し込もうと試みる。膨張した心臓の大きさで、食道がつっかえる気がした。
 

 その朝、教室は静かだった。身近に起こった死の実感が持てない生徒と、気が立った生徒が混ぜこぜになって、怯えの感情が充満していた。
 野生の本能なのか、同属が死んだときに人間はこのような反応を示すらしい。痛みを感じない者から怪我をする、死を恐れない者から死んで、消えて、残ったのは臆病者の集落だ。
 僕はそんなクラスの有象無象よりただひと席、窓際の前から二列目へ目が離せなかった。彼女がいない。不自然なほどぽっかりと、あまりに大きな余白に動悸が収まらない。
 彼女はいつも、朝に部活があるとかで誰よりも早く着座してる筈だった。
 その違和は他のクラスメイトも敏感に感じ取って、左手に浅葱色のシュシュを付けた女子が、誰も居ない机を撫でた。

「あの子先輩のこと大好きだったもんね、今日は来れないよね」
 
 指先から心臓へ、静電気が伝わったときみたいな痛みが流れる。
 同時に人差し指がぴくりと動いて、それが後ろめたく思えて包み隠す。
 僕の頭はもう何周も何周も、ずっと同じ道を辿っている。
 好きな人の好きな人が死んだ。それを微塵にも、悦の感情と共に口遊んだこと。矮小で醜猥な精神に罪悪を感じながら、それ自体まるで建前のようで、どこかでその情動に正当性を感じている事実へ、再度罪悪感を募らせた。
 「チャンスじゃないか」「彼女の心は弱っているはずだ」「そこに僕が、お前が一言『もう大丈夫だよ』と声をかけて抱き締めさえしたなら」「彼女の心は」「全てはお前の思い通りになるんだ」「さあ早く」「早く」「倫理や道徳は教科書の中で完結させろ」

 何人も、お前を脅かすことは出来ない。

 などと人格を分離して尚、偽悪に染まり切れない自分自身へ安堵する。けれど保身に終着する、意地汚さに自己嫌悪は深まっていった。
 言い訳を連ねるほどに、善性に縋るほどに、見窄らしく墓穴を掘っていく。そういう僕の汚穢がこの人差し指には乗っていた。
 だからせめて振る舞いに於いては、正しくあろうと考えた。そういう腹積りだった。
 
 僕は何と闘っていたんだろうか。
 ただ眩しくて純粋な彼女に相応しい人間でありたくて、でもその考えが肥大化するに連れて、反比例して僕は悪い考えに支配されるようになった。
 その考えが、叶ってしまった。叶ってしまったんだ。

 言霊ってあるだろうか。少し悪戯心だったんだ。
 何に祈ればいいんだろうか。僕は、僕は最期に、地獄にいきますか。

 ちょっと短冊に書いただけ、いや、願掛けもしたかも知れない。それでも、だけど本気じゃなかった、あの日は彼女が泣いてて、可哀想で、その原因が先輩だって分かってたから、彼女の心を揺さぶる先輩が憎らしくて、ほんの仕返しのつもりだった。

「霧星一彦が居なくなりますよう」

 そう書かれた短冊は、右ポケットで念入りに潰された。

 たとえば花火が打ち上がってから、永遠に宙を滞空するなら美しいだろうか。星が輝くのは、眩い光が目を焦がすのは、いつだって無目的だ。
 人は何かを、手に入れられぬから美しいだなんて、骨をお預けされる犬みたいに涎を溢れさせ、気障りに語ってる。隣の芝生は常に青く、花は赤く煌めいてる。
 けれど第一に、それが手に入れられぬのはお前にとってであって、僕が顔しか知らない先輩の前で、彼女はつまらない、凡庸でありきたりな、単なる女だったかも知れないのに。
 だから夜に孤独な人達が月に狂うのは、あれが共通して手に入らない象徴だからに過ぎない。

 昼の休み時間が終わり、五限目の時間に体育館へ移動する。クラスメイトが体育館用のシューズ入れを指からぶら下げて、歩きながら踏み出す足で蹴ってる。
「やっぱあれの話かな」
 彼は足元で行ったり来たりする獲物から目を離さずに言った。シューズ入れは左回転を繰り返し、紐は彼の指に向かって一本の線になってる。
 僕は曖昧に笑いながら「そうだろうね」と応えた。
 この時間にも彼女が来てるんじゃないかと見渡す、けれど、表情の硬い生徒達が見つかるだけだ。

 全校集会ではやっぱり、先輩の訃報が伝えられた。
「彼はとても品行方正で、皆の模範となる素晴らしい生徒でした。皆さん突然のことで動揺されているかも知れませんが───」
「んぁあ、、、ああ!!!なんで、、、っ!!!」
 慟哭が鳴り響いて、生徒達は俄に騒めいた。
 僕も何事かと思って音の中心を見ると、位置的に上の学年らしき女子生徒が膝を内側に折り畳んだ格好で座り込んでる。両手で顔を塞いで、目元を平らになりそうな強さで擦ってる。
 隣の男子生徒が「川見」と呼んだその女子は、間もなく三人の男女に優しく宥められ、立ち上がり、小さな歩幅で体育館を後にした。
 それに対し、皆が同情の面持ちをしてる。
 それなのに僕はといえば、既にこの世にいない人間が、ああも愛される事実に、後ろ暗い感情が生まれるのを努めて抑え込んだ。それはうんざりする程に、腹の底から出たがっていた。

「あの道は、、、界が悪、、、、険で、、、、残念、、、は、、、」

 半狂乱の女子が体育館から出て行くのを確認すると、校長先生は思い出したかのように、交通の注意喚起をした。時間の都合なのか、少し早口になってる。大人は色々大変なのだ。いい加減で投げやりに思えるけど、僕は何も言う資格がなかった。
 最後に「黙祷」と校長先生が言ったとき、一番後ろから啜り泣きが聞こえた。僕は顔を見なくても、声の主が誰なのか分かった。彼女だ。
「伊織さん大丈夫?無理しなくてもいいのよ」
「いい、大丈夫、先生」
 僕は振り返らずに、全意識を背後に集中させた。
 そしていつ、僕の罪が明らかになるのかを恐れた。彼女の姿はこちらから見えない、しかし僕は見られてる。もし彼女が鋭利な刃物のような物を持っていて、迫り来ていたとして察知する術はない。
 圧倒的な不利状況だ。しかしバレていない可能性がある以上、逃げ出すわけにもいかない。それこそ、自白めいてる。
 彼女が息を吸う音が、微かに、けれども確かに聞こえた。何か恐ろしいものが訪れる予感がした。
 僕はぐっと目を瞑り、右の太腿あたりを鷲掴みにした。

「いいの、私のせいだから」

 雷に打たれたような衝撃だった。

 おかしなことだ。彼女は何と言った?僕を責めたか?「お前が余計なことをしなければ」「お前を許さない!」と、いや違う、彼女は「私のせい」と。「私が悪い」と罪を告白した!確かにそう言った!
 大慌てで僕が振り返ると、彼女のビー玉のように透き通った目と合った。彼女はそのままうっとりとした目で僕を見て「貴方のせいじゃないよ」と言った。
 僕はくらくらして、彼女の前に跪いて頭を垂れた。その天辺を彼女の細く滑らかな手が、髪の一本一本を確かめる様な丁寧さで撫でる。僕は嗚咽を漏らしながら贖罪に打ちひしがれる。
 そのまま僕の黒い形相をした何か達は、彼女の指の隙間に絡め取られ、魂は清い藍色に返り咲いた。

 なんてことは起こらなかった。

 僕が振り返ったとき、彼女は左手で先生に少し体重を預けながら、扉のほうへ歩いているところだった。ゆっくりと、左足を軽く引き摺る様にして、永遠みたいな速度で。
 彼女が出ていくその背中、虚弱に揺れるショートカット、紺のスカート、少し焼けた細い腕、右手首に黒い腕時計、小さくなっていく輪郭を、僕はこれが最後のつもりで焼き付けた。

 土日を挟んで、それから数週間、授業中も休み時間も彼女は上の空で、次第に休みがちになり、ある日を境にぱたりと学校に来なくなった。
 僕は登校しない彼女を心配していた筈なのに、段々と空席に安堵するようになっていった。
 そうして夏休みが始まった。

 エアコンが故障した。
 風通りの悪い我が家は忽ち熱気が篭り、蒸し暑さで何のやる気も起きない。
 修理業者の作業を眺めながら、五杯目の麦茶を飲み終えたとき「こりゃ夕方までかかりますわ」と作業員の一人が言った。なんとなく会話の雰囲気から、修理が簡単でないことは察していたので、驚きも憤りもしなかった。
 予定のない自由な一日が、空費されるのも遣る瀬無いけれど、お金を使いたくはない。そういう訳で都市の方へ、駅前の図書館へ行くことにした。
 
 図書館に入ると、設定温度の高い冷房が少しずつ僕の熱を奪っていく。その速度を上げる為に、Tシャツを下からはためかせて風を中に通す。
 そのまま階段を登って手頃な文庫本を手にして、自習室に入る。本来は学習向けの作業専用スペースだけど、何故か他の場所より冷房の効きが良く、いつもがら空きだから読書に使ってる。
 冷たい空気を期待して、息を深く吸いながらドアを開ける。
「えっ」
 入口から三メートルほどの机に、彼女が座ってる。
 彼女が不意に現れ、更に息を多分に吸った関係で、意図せず大きな声を出してしまった。けれど、幸いにも他に利用者はいなかった。
 彼女は大きな本のようなものから顔を上げて、僕を半ば警戒するように見遣った。
「知り合いでしたっけ、あ、高校の人ですか?」
「そうです、一応、クラスメイトです」
 うーんと耳たぶを摘んで考えるポーズをして、わかんない、と小さく笑った。
「鳥山蒔白、後ろの後ろの右の席」
「話したことあった?」
「三回」
「うわ回数具体的、でもそっかぁごめんね、思い出せないです」

 四月から三ヶ月間で三回しか話してない。一般的にクラスメイトという距離感に於いて、男女間距離を鑑みても少ないかも知れない。けれど、これは彼女の特性に起因する。
 彼女はあまり教室にいたがらなかった。休み時間や昼休みになると、ふらっと何処かへ出掛ける事が多く、五月にはもう、授業以外で見掛けないのが当たり前だった。
 元々空気に馴染まない人だった。忘れ物が多かったり、突発的に大声を出して驚かせたり。
 一番最高だったのは、池でザリガニを拾ってきて、さけるチーズを与えていた。当然ながら教室は池の水とザリガニで生臭くなり、それでも尚彼女は嫌がる他の女子に餌付けを強要していた。
 他人を顧みない、傍若無人な振る舞いに陰口を叩かれたり、距離を取られることもしばしばあった。でもその直感的な自由さへ、僕は密かに憧れていた。

「勉強してるの?」
 学校に来ないのに、と続けて言いそうになった。それでも彼女が何か、未来へベクトルを持っていることに安心した。僕にその義理はないのに。
「そんな感じかなぁ、ほら星のね、色々覚えてる」
 そう言って分厚い図鑑の表紙を僕に向けた。大きさは彼女の顔二つ分ぐらいある。
「そういえば天文学部だっけ」
「何でそんなこと知ってるの、すごい、クラスでえっと、、、何君だっけ」
「ましろです、草冠に時、白磁機の白で」
 簡単な漢字だけど、空中を文字通りになぞる。けれど左右反転させるのを忘れ、ほとんど意味のない動作になった。
「ごめんね、最初聞いたの頭に入ってなかった。蒔白君ね、でね、多分クラスで蒔白君しか私の部活知らないよ、おめでとう」
 冗談の賞賛がやけに引っかかる。おめでとう自分、特別になれて、二番手ですらない癖に。

「ありがとう、最近学校来てないから、ちゃんと生活できてるか気になってたよ」
「ああ、七月の後半全く行かなかったもんね、ご心配おかけしまして、すみません」
「もう平気?その、、、」
 君の愛した人が亡くなったんでしょう。とは言えなかった。それでも彼女は意図を汲み取った。或いは他に思い当たる事柄がなかったのか、そっと顔を伏せた。
「辛いよ、辛いけど、それで学校に行かない訳じゃないよ」
「じゃあどうして?」
「うーん、ただ先輩のいない学校に、通う意味がないの、本当にそれだけ」
 はっとした。事実として分かっていたのに、こうして明瞭に突き付けられると妬心が湧き出て、それを罪悪が掻っ攫っていった。
「でもほら勉強とか、大学は?将来はどうするの」
「別にやりたい事もないし、夢とか、あったかな、今何やっても楽しくなくて、落ち込んでる訳じゃないんだけど」
 彼女の周りがしんと冷え切っていく気がした。
 僕は彼女に学校に来て欲しいのか、分からなかった。もし彼女が戻れば、また教室で怯えながら暮さなければいけない。

「僕も先輩のお墓参り行ってもいいかな」
 顔の知らないアイツに会いに行く、どうなるとも分からないけれど、状況を変えるには行為を起こさなければいけない。
「いいよ、先輩人望ないから、多分寂しがってそう」
 彼女は嬉しそうに、図鑑をぼんと閉じて立ち上がった。僕は彼女に何一つ事実と異なる事を言っていないのに、また一つ嘘を重ねてしまった気がした。

 ため息のような停車音と共に電車が滑り込んできて、僕たちは入って奥側の、シートの端に座った。
 駅のホームは日陰にしたって暑苦しくて、車両の空調が当たる度に言い表しようのない快楽があった。
「蒔白君さ、死んだ人って何処に行くと思う?」
「どこって」
 墓地じゃないんだろうか。そうでないなら僕たちは、これから単に石を拝みに行くことになる。
「人は死んだらね、星に行っちゃうんだよ」
「え?」
「え?じゃなくって」
「オリオンとかヘルクレスとか」
「それは星座でしょ」
 だめだね、と彼女は笑った。
「星っていっぱいあるでしょ、これまで死んだ人たちを住まわせる為なんだって、だから死んじゃっても、本当に気持ちが通じ合えば」
 昼間だって見つけられるんだよ。

 断言する彼女は確信めいていて、不思議と説得力があった。先輩は、いまは見えない宇宙の何処かから、僕を睨みつけてるんだろうか。
「だから星の勉強してるのも、天文学部ってのもあるけど、いつか会いに行こうと思って」
 あの図鑑もいつか礎になるのだよ、と彼女は得意げに笑った。よく笑う子だ、
「行ってどうするの?」
「会って、ごめんなさいってする」

 そうだった。どうして僕はいままで忘れていたんだろう。あの日体育館で彼女が溢した言葉を。
 確かめたい、彼女が背負った十字架の重みを。それが僕のより重たければ、僕は晴れて赦される。そうでなければ、彼女が赦される。
 さあ言おう、と思ってから、3分の間が空いた。
 理由は簡単で、ここでもし審判を下して仕舞えば、罪人がどちらであれ僕たちは一緒にいられないのが分かってたからだ。
 
「星について学びたいなら地学かな、大学でも天文やりたいなら物理と数学が要るかも」
「えー、私数字嫌いなんだよねぇ、授業いっつも寝てる」
「知ってる、後ろからよく見える」
「あはは、不真面目がバレてる」
 
 もう少しだけ、待ってくれないか。

「伊織さんって霧星先輩と付き合ってたんだっけ」
「まさか、そんなんじゃないよ」
「でも好きだった、っていうか今も好きだよ」

 今日だけでも、曖昧でいたい。

「それにさ、私が好きじゃなくなっちゃったら、もう誰も先輩を思い出してくれない気がする」
 それって寂しいから。

 けれど僕は、誰もが先輩を忘れてしまった方が、みんな幸せになれるんじゃないかと思うよ。
 
 みんな、だろうか、お前、じゃなかろうか。

 街を車窓で切り取る入れ物はそれから、目的地まで沈黙を運んだ。

 共同墓地に着く前に、花屋に立ち寄る。

「お供えの花って何がいいんだっけ、菊とか」
「先輩は秋桜が好きだったよ、っていうかそれ以外買わせません」
 彼女は迷わずに秋桜を手に取ってレジに向かった。一切無駄のない動きだ、もう何度もここへ来てるんだろう。
 彼女が一束取った秋桜はセール品として売られてる。五本入って100円。一輪20円ほどになる。
花ってこんなに安かっただろうか。ほとんど生命への冒涜じゃないか、と言おうとしたけれど、石の前に飾る時点で値段関係なしに生命を軽んじているような気がした。

 蝉時雨を一身に受けながら、蛇が這ったみたいな曲がり道を進むと、そこに共同墓地はあった。

 先輩の墓石の前にしゃがむと、彼女は小さい鞄から線香とライターを取り出した。いつも持ち歩いてるんだろうか。だんだん心配になってきた。

 いよいよ両手を合わせて目を瞑る。言うべきことはたくさんある、あった、筈なのに。何も思い付かなかった。
 薄ら目を開けると、そこには唯の石が建っていて、それは僕を睨みも軽蔑も嫉妬も恨みもしなかった。
 墓石の上に乗った水玉がゆらゆらと、日光を乱反射させた。 

 帰りの電車は少し疲れて、お互いあまり言葉を交わさなかった。夕陽が照り入って、彼女の膝先を染めた。
 何番目かの駅で、旅行者のような装いの海外の人が乗ってきた。友達のようにも、長年連れ添った恋人のようにも見える距離感の男女だった。
 二人は何か大きな声で話し合って、オーバーなジェスチャーで、笑い合った。

「んあ、ねえ鳥山くん英語得意だっけ」
「そうだね」
 音量としても、充分内容が聞き取れる大きさだった。
「あれなんて言ってるの?」
 暇潰しの質問。彼女は眠たげに、観光客を見遣った。
「君が好きだって」
 言ってない。彼らはこの後橋を観に行こう、なんて話をしてる。
「後先考えずに突っ走るところも、奇想天外にふざけるところも、誰かを一途に愛し続けているところも、大好きだって」
 罪か愛か、僕は告白すべきものをとうに見失ってしまった。想いは綺麗な真円だった筈なのに、いつの間にか名前の付かない形相になった。
 僕は何を、誰を、どうして愛して、僕は、何故?

「素敵な純愛だ、報われるといいね」

 彼女はそうやって、屈託なく微笑んだ。

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