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「好きぴに振られた!もう生きていけない!!!」
 私はこの手の相談にウンザリしていました。そこまで言うならサファリパークの猛獣たちの渦中に置き去ってやろう、と喉を出かかったところで、
「私にはA美しかいないよ」
 というまたしても安易な断言に、その実直さだけは評価するべきなのかしら、と半分くらい考えながら、調子の良さに呆れました。
 普段は人間社会というサバンナでライオンの骨髄をむしゃぶるほど逞しいのに、こうして一人前に憂いていると年相応の女の子なのだと思いました。

 ああいう、チャイルドヤンキーとでも呼びましょうか、第二次不良的な性分に惹かれてしまうのは、こういう"女の子"の特権なのでしょうか。私には皆目、彼の良さが解らぬのです。と言うと大抵「A美は幼馴染だから慣れてるんだよ」と半ば恨めしそうに言われるので、その都度なんだか申し訳ない気分になります。
 確かに、彼は麗しい外観をしていると思います。しかし、内面が伴わず、ウドの大木と申しましょうか、いえ、骨皮筋右衛門たる彼には小木が似合いでしょう。枝があっちこっち野放図に伸びて、その一つ一つが削りたての鉛筆のように尖っているので、近寄れば擦り傷の一つ二つ免れようもないのです。そんな彼の弱々しい幹に初恋という雷を落としてしまった私にも、そのやさぐれ節の一端を担った可能性があるというなら、僅かに申し訳ないとは思うのですが、まあ、憂いたとて詮のない事です。
 当時の私には付き合って三日目の恋人が居りましたし、その三日後に別れた事を何年も彼に伝えなかったのは、態々口にする程でもなかったからです。
 別れた事が彼に知れたのは、今の恋人と綿飴をちぎり合っているのに出会したからに過ぎません。お祭りの喧騒に消されながら彼の唇が何かぱくぱくと動いて、私はそれに対して少し前獲り損ねた錦柄の金魚とおもねながら手を振りました。

「ねえU子ちゃん」
「なに?」
 彼女は両目に涙を溜めて私を見て、その右頬をつうと滴が一筋溢れました。私はやるせなくなり彼女の手を取って「パフェ食べ行こ」と引っ張り、座席を立ちました。
 彼女はつられて立ち上がり可愛らしく微笑して、空いた方の腕で涙を拭いました。きっと食べ終わる頃には何の胸焼けだか判らなくなって、また猛々しい彼女に戻っていると思います。
 リュックを背負うとスカートのポケットに入れていたスマホに着信があって、私は発信者を確認してからスマホを仕舞い直し、そのまま大学を後にしました。

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