#1

「私のことが嫌いですか?」
僕はこの手の質問にウンザリしていました。強いて言うならそういう質問をしてくる女の子は嫌いかもね、と喉を出かかったところで、
「それでも私はあなたのことが好きです」
というまたしても安易な好意をいまだ飽きもせずに向けてくる。やあ君はなかなか忍耐力があるね、と半分感心しながら、僕は人を嫌だ嫌だと言ってそのうちは、他人の好意と善意に甘えているので、なんだか申し訳ない気分になったのだ。
 諸君、とにかく恋をしている女子というのはそれはもう、ビビッドピンク色の鋭利なナイフであります。彼女らは申し訳そうな顔一つせずに刃物をズカズカと刺してきて、そして飽きれば引き抜いて酷い出血を起こします。下らない、実に下らない。例えば、「秋になった、寒いよ」と言って性懲りも無く擦り寄ってくる人をいいやダメだ触らないでくれ触ったところからカビが生えて菌だらけになってキノコでも生えてきそうだ!と叫んだところで僕は加害者になってしまうわけですから、へえ、と言って僕は変わらず、まっすぐ歩きます。
 いいや僕は、嫌いな人ばっかりだ。と宣ったところで、代わりはいくらでもいるものですので。例えば嫌がらせを繰り返してみて、もしくは自分に都合の良いようにさせてみて、反抗しなかった人たちだけを残せば或いは僕は楽して生きられるんじゃないかしら、という女王的な思考が、僕の中には渦巻いていました。「やっぱり君は僕じゃない方が良いよ(君は僕の思い通りにならないので)」と言うと女の子というのは多少悲しむ。さよなら、お元気で、大切にしてくれる人のところへ行くんだよ。と親のような気持ちになって見送ります。とはいえ僕も、淋しいと思っている。淋しいというのは、頂き物の大きなカステラを一人で食べるときのことです。
 僕は人を自分の部屋へ入れません。理由は、自分の領域に立ち入って欲しくないから。僕はベッドの下から絵の具を取り出すと、なんとなく肌に塗りつけました。指の隙間まで丁寧に。変身願望の一部でしょう。僕はまだ髪を染めたことがありません。僕は酒を好みません。視力も要らないので、眼鏡はつくりません。近眼で見えなくなった情報は不必要なものです。必要そうなものには、近づいてよく見てみてから考えればいい。おおコワイコワイ、お化けが来るようです。そう思って僕は、布団に潜り込みました。

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