#3


僕はペットショップに内設されている水槽をじっと眺めている途中でした。僕の頭の中には常に記憶と想像とが渦巻いていて、そのとき思い出されたのは夏祭りのことでした。
ピンクの花柄の浴衣に、大きな綿飴を持った女性がいて、それはよく見ると、僕の知る人物でした。それは仲睦まじいもう一人の人間と足並み揃えて歩く姿であり、僕は、なあんだ、と思いました。彼女は僕へ手を振ってきました。僕はもう、だめでした。気持ち悪くて仕方ないのです。彼女はもう少し聡明な人間でした。何が彼女を変えてしまったのか、あるいは、僕はきっと彼女を都合よく解釈していて、何も知らず、知らないからこそ、僕の空想によく当てはまりそれが美しく見えていたのかもしれません。いずれにせよ僕はがっかりしました。それで自分の求めている何かなどというものは、ついにこの世のどこにも存在しないのではないかと憂いました。それより僕はその日、美術館の帰りで、何時間かかけて回ったのですが、それにどうにも価値を感じることができず、自分の目が肥えていないことを納得させられた気がして、気分が沈んでいたのです。とにかく昔、非常に熱い砂の上でサンダルを脱ぎ、友達が買ったといって騒いでいたかき氷機から降り落ちる氷のあのキラキラとした質感を思い出し、急にかき氷がどうしても食べたくなって、この屋台に踏み出してきたのですが、注がれるブルーハワイのシロップも、店主に差し出した五百円玉の金色も全て安っぽく見え、つまらなくなったのは僕の方なのだと思いました。チープな甘ったるさが喉を痛め、僕は吐き気を堪えました。全身に鳥肌が立つようでした。呼吸が乱れ始めるようでした。いつからこんなにも、不安定になってしまったのか、僕は、どうにも、いけませんでした。急に世界がモノクロに、平面になっていくような感覚がして、全てが訳のわからない記号になってしまった気がして、そしてその訳の分からない記号たちが、たとえばアスタリスクのような、単なる線の重なりから、大量の臓物と血液が噴き出す瞬間のような不快感が起こり、そして僕の立っているこの身体以外が全てぺちゃんこに潰された、僕はまるでデカデカと印刷された漫画の一ページの上に、ポツンと立っているような、そういう類いの孤独感が起こり、そしてそのつるてんとした地面が、ゆらゆら揺れているような酔いと、僕以外に立体を保っている人がいない、助けを誰に呼べばいいのか分からない不安感で、今にも泣いてしまいそうでした。そのとき、チャプンと音がして、僕はやっと我に帰りました。水槽の金魚が水面を跳ねた音でした。ザワザワと音が戻ってきて、そんなに威勢のいいわけがあるかと思いました。きっとそれは錯覚でした。

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