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きみが生まれてきてくれた日のこと


10年前の今日、私にとって初めての子供である長女が生まれた。分娩台に横たわる私の胸にやってきた長女はとても小さくて、触ったら壊れてしまいそうに見えた。涙が出た。ただただ愛おしくて、「生まれてきてくれてありがとう」って小さな長女を抱き締めながら泣いた。


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長女が生まれて、私の世界はぐるりと変わった。自分のためじゃなく、子供のために生きることが最優先事項となった。たとえご飯を食べていても、長女が泣いたらすぐに抱っこをした。そして、抱っこしながら片手で食べる。そのおかげで、不器用だったけれどずいぶんと器用になったように思う。眠れない日もたくさんあった。

お昼寝するときは横抱きにして子守唄を歌うことが日課だった。最初は寝る気配も無く目が合う私たちだったけれど、ゆらゆらと子守唄に合わせながら揺れていくと、次第に長女の小さなおめめが閉じていく。全身の力が抜けて、すやすやと眠る。なんとも頼りなくて、でも、私にすべてを預けてくれていることがとても嬉しかった。愛おしかった。あの頃の長女の寝顔はきっと、一生忘れない。こんなにも子供の寝顔を愛おしく感じれるなんて、私は思ってもいなかった。


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1歳を過ぎたころ、祖母と一緒に庭で遊んでいた長女が戻ってくると私に何かを差し出した。手のひらを広げると、そこに置かれたのは小さな名前も知らない花だった。「ママにくれるの?」と聞くと、「うん!」ととびっきりの笑顔を向けてくれた。胸の深いところから愛おしさが込み上げて、ぎゅっと長女を抱いた。さらさらの髪の毛が私の頬に触れた。その花は今でも大切にして手帳に挟んである。小さくて名前も知らないような花だけれど、私にとっては世界でひとつだけの思い出の花だ。

歩けるようになった長女と一緒に散歩をする。空を飛ぶ鳥、川のせせらぎ、公園に舞う桜の花びら、そのどれもが長女が隣にいると鮮やかに映った。ひとつひとつの場面を切り取って思い出になっていくことの美しさと切なさを知った。


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あっという間に、子供は大きくなっていく。きっと、一緒に歩いた散歩道のことも、子守唄のことも長女は忘れているだろう。母である私は、まだこんなにも鮮明に覚えているのに。あなたが生まれたときのことも、昨日のことのように思い出せるのに。



過ぎ去る時間の儚さに胸が締め付けられるけれど、時間は止まってくれないんだ。


もし、あのころに戻れるのならば、小さかった長女を思いっきり抱き締めてあげたい。「すきだよ」っていっぱい伝えたい。そうして、「ママ、すき」ってもう一回、あのかわいい笑顔と小さな手のひらで私を包んでほしいなあ、って心の底から思う。


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でも、今のあなたが一番好きだよ。手は大きくなったし、背もあと少しで私を越してしまいそうだけれど......笑ったときの顔はあの頃とまったく変わらないな。

いつだって、大切で可愛くて愛おしい長女。

10歳のお誕生日おめでとう。

この先も、あなたがあなたらしくいられますように、と願いを込めて。






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