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大好きだった先生と、名前も知らなかったあの子
初めて自分のホームページを作ったのは高校1年生の頃だったと思う。
当時、仲良くしていた先輩達から彼氏とのツーショットのプリクラやデートの内容、たわいもない会話を可愛い絵文字を駆使しながら書いていた日記などが載ったホームページのURLが『HP作りました!』という文章と共にメールで送られてきた。
そのURLを開くと、先輩が彼氏にぴったりとくっつきながら撮ったプリクラがトップベージに飾られている。
率直に羨ましかった。眩しいなって思った。
小学生の頃からそれなりに好きな人がいたり中学生の頃は付き合っていた人もいる。でも、おままごとのような恋愛は長続きしなかった。恋に恋していたんだと思う。14歳のときに大失恋もした私は、しばらくは恋愛から遠ざかっていたのだ。
先輩達が作ったサイトに飛び、日記という名の惚気話を読んでコメントに感想を書く。
そうするたびに、恋愛ではなくサイトを作ることに興味が出てきた私は自分のホームページを作ってみることにした。
ホームページを作るのは意外にも簡単だった。
専用サイトからURLを作り、テンプレートを使って作っていくだけ。私は初めは絵文字などを使ってデコデコなサイトを作ってみたけど、最終的にはシンプルなものが気に入ったので白と黒で統一したホームページを作ってみたのだった。
でも、ホームページは作っても肝心の書くことがない。
恋人もいなければ恋愛すらしていなかった私は、ただの日常を記すことにした。学校生活のことや好きなアイドルやアーティストのこと、家庭のことまでそとき思い付いたことをつらつらと書いていたように思う。
日記やリアルタイムのページを作ってそこに自分の気持ちを記しておくことが、なんだかわくわくしてすごく楽しかった。
リアルタイムのベージをもうひとつ作り、好きな歌詞の一部を書いていくページも作った。私はこのページが特にお気に入りだった。好きな曲は今でも私のなかにあって、きっと今もそのページを作ったらきっとあのときと同じ歌詞を書くと思う。
『私もホームページを作りました!』と先輩達にメールして、お互いにサイトを行き来した。学校ですれ違ったときや一緒にお昼ご飯を食べているときに「昨日のホムペの日記にさ〜」と話すことも多くなった。私は変わらず学校生活のことなど日常的な日記が多かったけれど、先輩達は楽しそうに話を聞いてくれた。
そんなインターネット生活を楽しんでいた私は、あるときからもうひとつのホームページを作ることにした。
好きな人が出来たのである。しかもそれは、友達や先輩には言えないような「秘密の恋」だった。
「好きな人が出来ました!」と日記に書けば、相手は誰か。どの学年の人なのか。きっと質問攻めに合うだろうと思った私は気安くそのことを書ける気持ちにはならなかった。だって、答えられなかったから。
私は、先生を好きになってしまったのである。
まったく、14歳の頃は(知らなかったとはいえ)家庭を持った男性を好きになって振られるわ高校生になったら今度は先生を好きになるというなんとも無理難題な恋愛ばかりしてきたのだろう。あの頃の私にとって大人びた異性はものすごく魅力的に映ったのだ。
さて、さすがに先生を好きになったことを周りに教えられなかった私はせめて全国のどこかにいるであろう同志を求めてもうひとつのホームページを作ることにしたのである。
そのホームページには当時、好きだった先生と交わした会話や好きなところなどを書いていた。もちろん名前は書けないから、先生を表す記号として絵文字のカエルを使っていた覚えがある。今思えば、カエルが大嫌いなのに何故カエルを選んだ......?
そんなことを毎日のように書いていたある日、BBSという掲示板に書き込みがありましたよという通知がメールに送られてきた。
ドキドキしながら掲示板を見に行くと、私と同じように先生に恋をしているという高校生からの書き込みがあった。そこにはその子が使っているというホームページのURLも書かれていたので、すぐにそのホームページへ飛んで行った。
カジュアルな雰囲気の可愛らしい見た目をしたホームページに飛び、日記やリアルタイムを覗いていく。そこには、その子から先生への思い溢れたメッセージがたくさん綴られていた。ものすごく一途で、読んでいるだけでも胸がぎゅっと締め付けられたことを覚えている。
すぐに自分のホームページに戻り、掲示板に書かれたメッセージの返事を書く。私のホームページに着てくれてありがとう、あなたのサイトも素敵だったよ、お互いに報われない恋だけど頑張ろうね!というメッセージを書いたように思う。
それからその子とはお互いの掲示板に行き来をしたり、日記にもコメントを残したりするようになった。「先生と話せたよ」と書けば「良かったね」と喜び合い、「今日はすれ違うことも出来なかった」と書けば「きっと明日は会えるよ!」と励まし合う。女子高生二人がお互いに近況を報告し合って、報われない恋だと分かっていながらも何かを手に入れようとしていたのだ。手を伸ばしても、スルッと抜け出してしまいそうな目に見えない何かを。
こんな関係もしばらくは続いていたけれど、いつの間にか自然消滅してしまった。
あの子のホームページが消えたのか、私のホームページが消えた方が先なのかもまったく覚えていない。
あんなに好きだったのに、先生への想いもいつからかパタリと途切れてしまった。
なんとも浅ましい、それでいて儚い恋だったのだろう。
あの淡い恋心に恐らく酔っていた日々はものすごく短かった。だけど、とても濃い時間を過ごしていたような気もする。廊下ですれ違っただけで心臓がうるさく音を立てたことがとても懐かしい。今、思い出してみても、好きだった先生の可愛らしい笑顔や大人びた後ろ姿が鮮明に脳裏に浮かぶのだから、きっとあの恋は私にとって必要なものだった。
しかし、インターネットを使い始めたときのことを思い巡らすと、それほど大好きだった先生のことよりも、名前も知らなかったあの子のことをよく思い出す。
もう私達のホームページは消えてしまったけれど、お互いを励まし合って日々を繋げてきた時間は今でも私の胸に大切な思い出として残っている。
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