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料理を楽しむ気持ちがスパイスとなって美味しさを引き出す



私はどちらかと言うと料理が苦手な人間の部類に入る。
食べることは大好きなのだけれど、いざ作る側となるとぎゅっと心が縮こまってしまうのだ。決して、作りたくないわけじゃない。ただ、料理に対して苦手意識がある。


子供の頃、よく母親に料理を手伝わされていた。
休みの日に家でゴロゴロしていると、急に不機嫌そうな表情を浮かべた母親から「カレー作って!」と言われたものだ。母親の口癖は「あんたは女の子なんだから料理ぐらいちゃんと出来るようになりなさい」だった。その言葉通り、ひとつ年下の弟は包丁すら持ったところを見たことがない。

ずっと隣でイライラして落ち着きなさそうに母親がもたつく私の手元を見ている。不器用で要領が悪い私は、「なんでこんなことも出来ないの!」とよく怒られた。怒られながら、胃をキリキリさせてなんとかカレーを作った。

私は「料理が好き」だとか「料理が得意」と言える人達が羨ましかった。男女関係なく、手際よく栄養バランスも考えられた見た目の綺麗なご飯を作る人見かけると羨ましい気持ちでいっぱいになる。

たしかにご飯は作れるようにはなったけれど、「料理が楽しい」と思えることは当時、ほとんど無かった。


そんな私も結婚をして、今は旦那と四人の子供達と生活をしている。もちろん、ご飯は私が作ることが多い。

台所に立つと、ふと母親から料理を教えられたときのことを思い出しては胸がきゅっとなることがある。「ちゃんと作らなきゃ」と気が張ってしまい、作り終わったあとは何もしたくないぐらいに疲れてしまう。「母親がご飯を作ることは当たり前のことなのに......」とすぐにクタクタに疲れてしまう自分が嫌になり、料理を好きになれない自分は母親としても女性としても失格なのではないか、と思ってしまうぐらいに落ち込むときもあった。

でも、そんな私でも子供達と一緒に料理をしたり、誕生日である家族のためにその日だけのご馳走を作ることは好きだった。


長女と次女は料理が大好きで、よく一緒にクッキーやピザを作った。お気に入りのお揃いのエプロンを付けて生地をコネコネしたり、ハートや星のかたちをした型抜きをどれにしようか楽しそうに選んでいる娘達の姿を見るのが好きだった。その姿を忘れないために、写真もたくさん撮った。

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娘達と一緒に作ったお菓子はどれも美味しくて、なにより自分達で一から作ったお菓子をものすごく美味しそうに嬉しく頬張る二人の笑顔がなによりの私へのご褒美だったように思う。

「ママ、料理をするのって楽しいね!」
「また一緒に作ろうね!」

娘達の言葉に、私も「うん、また作ろう!」と笑顔で応えられたことが嬉しかった。

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何年か前の旦那の誕生日が近付いてきたある日、「今年の誕生日は何か美味しいものを作ろう」と思い立った。

旦那が好きなパスタと、子供達が喜びそうなメニューを考えた。出来上がったご馳走を前に家族が喜ぶ姿を思い浮かべただけで、私の心もほんわりと温かくなる。


誕生日の当日は、ほとんど台所に立っていた。

主婦になっても不器用なところや要領が悪いところは直ることはなく、きっと母親が見ていたらあの頃のように怒られていただろう。「もうほんとにあんたはドジなんだから!」という母親の声が耳奥で聞こえる。

しかし、そんなことはもうどうでも良かった。

だって、今の私は愛する家族のために楽しくご飯を作っているのだから。それがどれだけ幸せなことか。

誰かのことを思ってご飯を作ることが料理の楽しさだと教えてくれたのは家族だった。


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大好きなパスタを口にした旦那は「美味しい!」といっぱい喜んでくれた。

初めて作ったタルトも大好評で、心底、作ってよかったと思うことが出来た。


もちろん、毎日のようにご飯を作ることは本当に大変だ。献立を考えて買い物をして、他の家事や子供達の相手もある。正直、「今日はもう作りたくない......」と思うことなんてしょっちゅうだ。

でも、頑張れそうな日や家族の特別な日ぐらいは料理を頑張ってみようと思った。


今ではもうすぐ4歳になる長男も一緒にご飯を作ったり、お菓子を作ったりしている。そうすると慌ただしくなっててんてこ舞いになるのだけれど、男の子も女の子も小さいときから料理に触れておいて損は無いはずだ。それで「料理は楽しい」と思ってくれたら、どんなに喜ばしいことだろう。


まずは自分から「作りたい」という気持ちになることが大切なのではないかと思う。それが、料理が楽しくなるための第一歩なのではないだろうか。


まだまだ料理に対して苦手意識が拭えられない私だけれど、家族と一緒に作ったり喜んでくれる誰かのためにご飯を作ることは楽しい気持ちになるということを知った。

きっと、そんな気持ちで作ったご飯はより一層、美味しく感じられるんじゃないかなと思う。


「美味しい」は「楽しい」と同じように、「楽しい」も「美味しい」に繋がるのだ。










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