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『呪われた部分』ジョルジュ・バタイユ著作集
生田耕作訳/1973年発行

  七 ロシア的問題と世界的問題の対立

 過酷で狭量な面を備えているとはいえ、現代ソヴィエト連邦のうちに、頽廃のそれではなく、むしろ凄まじい緊張の、すなわち革命の現実的諸問題を解決するためには何ものを前にしてもたじろがなかった、今後もまたたじろがないであろう、一つの意思の表現を認めないためには、文字どおり目隠しされていなければならないであろう。諸々の事実にたいして「道義的」批判を突きつけることも、かつて表明された社会主義の「理念」から、現実において、遠ざかっている面を、個人的利害や思考を取り上げることも可能だろう。こうした状況はしかしながらソヴィエトのそれであり――全世界のそれではなく――ソヴィエト的理念ならびに方法(ロシアの独自な諸決意に結びついた)と、他の諸国の経済問題とのあいだに横たわる現実的対立の結果をそこに認めないためには、やはり目をつむる必要があるだろう。
 根本的にソヴィエトの現在の組織は、生産手段の生産に専念しているので、設備の生産を切り詰め、消費用品のそれを増加させる方向へその効果がむかっている他の国々の労働運動とは逆行するものである。しかし、ソヴィエトの機構がそれ自体の経済的必要性に応じているのと同様に、それらの労働運動も、少なくとも全体的に見れば、それを条件づけている経済的必要性に応じているのである。世界における経済状況はけだしアメリカ産業の発達によって、すなわち生産手段および、それらを増殖する手段の豊かさによって支配されている。合衆国はさらに、原則として、提携諸産業を最後には自国の産業と似通った条件のなかに持ち込む力を有している。従って古い産業国においては(目下のところは逆の外観を呈しているにせよ)、経済問題は販路の問題ではなく(すでに広範囲な領域において、販路の問題にはもはや可能な答がなくなっている)、利益によって補われない消費の問題へと変わりつつある。生産事業の法的基盤はきっと維持できなくなるだろう。ともかく、到るところで、現代世界は急速な変貌を招いている。まこと地球がこれほど様々な目まぐるしい動くによってかき立てられたことははじめてである。もちろん、重大な急激な破局を地平がこれほど重く孕んでいるように見えたこともはじめてである。はっきり言うべきだろうか? もし破局が実現すれば、ソヴィエトの方法が――個人の声の見事な沈黙の中で!――広大な廃墟の尺度にふさわしい唯一のものになるであろう。(貪慾な混乱をこのようにして完璧に否定し去った上で、あらためて建設にとりかかりたいと、人類は無意識のうちに望んでいるようにも受け取れる。)だが、これ以上恐怖を表明せず――死が堪え難い苦痛を速やかに癒してくれるだろうから――この世界に立ちかえって、その様々な可能性を認知すべき時期である。思想の物質的条件を率直に認める人間にとっては何ひとつ閉ざされていない。また到る所で、あらゆる方法で、世界はそれを変えるよう人間を招いている。恐らくこちら側の人間は必ずしもソヴィエトの仮借なき道を辿るよう促されはしないだろう。最大限に、脅えきった反共産主義の不毛性の中でこんにち彼は自分をすり減らしている。だがもし彼が解決すべき自らの問題を抱えているならば、盲目的に呪うよりも、己れの様々な矛盾が押しつける窮状を訴えるよりも、ほかにもっと為すべきことがあるはずである。ロシアの土地を深く耕した人々の無常なエネルギーを理解しようと努めるとき、あるいはさらに進んで賛美するとき、彼は自分に課せられた責務にそれだけ近づくことになるであろう。けだし到る所で、あらゆる仕方で、動きつつある世界は変えられることを望んでいるからである。

p.223-225

28 - 若者と大人、ニュース先読み一週間(結果的に) 参考資料

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