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Meta Quest 3(VR・MR)とXREAL Air(自称AR)のふたつを使った所感

――空間コンピューティング時代の老害になるな。
どうも、ドチン・カズラと申します。

Amazonプライムセールで大特価になったMeta Quest 3を購入しました。

1週間ほど使用してみましたが、VR機器としてのクオリティは非の打ち所がないです。さすがOculus時代から長年VR機器を開発してきたMeta社の最新ハードなだけあります。

しかし、僕が期待していたほどの体験は得られなかったというのが正直なところ。

さて、前回の記事でも書いたのですが、僕はプライムセールでARグラスである「XREAL Air」も購入しています。
Meta Quest 3とXREAL Airは全く方向性の違うデバイスではありますが、どちらもスマートフォンの次のイノベーションとなる可能性を秘めた「生活を変えるデバイス」です。また、双方ともに”PCモニタの代替”であったり、”大画面でのコンテンツ視聴”など、用途として競合する部分も少なくはありません。

今回はそんな2つのデバイスを機能的な面では無く、「どれほど生活に変化をもたらしたのか」で比較していきたいと思います。

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圧倒的に気軽なXREAL Air


Quest 3は従来のヘッドマウントディスプレイ型で、XREAL Airはグラス型です。その時点で既に着用から使用するまでの心理的ハードルに大きな差があります。

さらに、Quest 3が重量515gなのに対し、XREAL Airは79gと、使用を開始してからの身体的な負担面でもグラス型に大きな分があるのが実態です。

もちろんQuest 3には圧倒的な没入感やスタンドアロンで動作するといったメリットがありますし、そもそも想定する用途が違うので単純な重量比較はアンフェアです。

とはいえ、実際問題、動画を大画面で見るなどの「どちらでも実現可能なタスク」が発生した場合に手に取るのはXREAL Airです。

ちなみにXREAL Airは自称ARグラスですが、Ultraを除く他の機種にはカメラが搭載されていないので現実世界を基にして何かを表示しているわけではありません。なので拡張現実という表現はあまり適してはいないと思います。

あくまでグラス単体だと映像をデカく投影するだけの「グラス型ディスプレイ」であって、全てのコンテンツは接続する入力機器(スマホやPC、ゲーム機など)に依存します。

真の意味での空間コンピューティングデバイスとして比較するなら「XREAL Air 2 Ultra」+「XREAL Beam Pro」が適切なのですが、如何せん値段がQuest 3より大幅に高いし、NebulaOSも成熟していない段階では期待できるほどのものではないと思うのでまたの機会とします。

意外と面倒なハンドトラッキング

XREAL Airの購入時期はQuest 3の1週間ほど前でした。
そのとき抱いていた不満が

  • 「操作するためにデバイス本体を操作しなければならない」

  • 「コードが邪魔」

の2点でした。

Quest 3であれば上記2つの問題は解決するだろうと期待を込めていたのですが、なかなか理想通りの体験は難しいなという結果に。

VisionProでもメインの入力インタフェースとして採用されているハンドトラッキング、僕も新しい未来のインプット方式だと思っていました。
ところがいざ実際にやってみると、かなりの問題点が明らかに。

  • 細かな操作が難しすぎる

  • 肘が支えられていないと手が疲れる

  • タップしてクリックする動作の反応がシビア

  • タップしてクリックする動作を繰り返すと手首に披露がたまる

  • 腕の可動域とカメラの範囲に対して広すぎる画面領域

  • 3次元の画面をポインタで操る難しさ

まぁ搭載しているカメラ位置とかで使用感はだいぶ変わってはくるのでしょうが、はっきり言うと「2次元のディスプレイ」+「マウス・キーボード」の利便性にはまだ到底敵うレベルではないかなといったところ。

いちおうQuest 3にはコントローラもあるのでそれを使えば解決なんですが、まぁ使うたびにコントローラを持ってくるのはめんどうですからね。

ハンドトラッキングを使っていてまず一番に不便と感じたのは”細かい操作がやりづらい”ことです。

例えばWebページを見ているときのスクロール

皆さんはスマホやPCでWebページを見るときに、どれくらいページをスクロールしているか意識したことはありますか?

マウスであれば、人差し指でホイールを転がすだけですし、
スマホでは親指で画面をなぞるだけなので、
あまり負担に思うことはないです。

しかし、ハンドトラッキングにおいては、まずトラッキング範囲(カメラ位置)に手を持っていき、画面に人差し指を向ける必要があります。
この時点で、既に腕の動きはマウスに比べてかなりダイナミックとなります。

そしてスクロールするには、向けた人差し指と親指をくっつけてクリック状態にしたまま動かします。

細かいスクロールをちまちまと行うために、人差し指と親指をトントントントン引っ付けては腕をグワングワングワングワン動かすのです。それはもう疲れます。

あとは文章の選択や長押し(コピペのため)、小さなボタンのクリックなどでは非常に繊細かつ大胆な動きを求められるので、長時間使っていると腱鞘炎になるんじゃないかという恐怖で使用を中断してしまいます。

空間コンピューティングなので自身の近くにウィンドウを持ってくればスマホやタブレットのタッチディスプレイのように直接スクロールできますが、まぁ「だからなに?」といった感じです…。

これはよっぽどXREALが画期的なトラッキング機能を搭載していない限りはXREAL Air Ultraでも起こりうる問題だと思います。

VisionProは視界外に向けたカメラもあるため、トラッキング範囲が広くまた勝手が違うのかもしれません。

期待外れの空間コンピューティング

空間コンピューティングの肝となるソフト面での対応にも期待外れな部分が多くあります。

Questはv67のアップデートで「新しいウィンドウ レイアウト」が実装されたばかりなので、空間コンピューティングの側面はまだまだ発展途上なのは留意すべきなんですけどね。

個人的に気になったのは

  • 大前提としてカラーパススルーは期待するほどのものではない

  • ウィンドウを視界・立ち位置に追従させる(0DoF、3DoFモード)方法がないっぽい

  • 同じアプリはともかく、画像や動画などのファイルを複数開くこともできない(現在同一アプリで複数ウィンドウに対応しているのは標準ブラウザーだけ?)

特にカラーパススルーは期待が大きかったばかりに残念な結果でした。
僕はもともとQuest 2を所持していたので、モノクロの低画質パススルーと比較すると大幅に進化しているのはわかります。しかし、10万円弱のデバイスのカメラパススルーで”現実世界をそのまま見ている感覚”を得るのはまだ無理かなと。

その方面で比べると、視界が暗くなるデメリットを考慮しても、シースルー型のXREAL Airのほうが格段に違和感がありません。
Quest 3のカラパススルーにおける歪みや色味などはソフトウェアアップデートで改善される可能性がありますが、根本的な画質の向上はハードウェアの課題となるので、ここも後継機種に期待する部分です。

ウィンドウの追従についてはどうにかしてほしいですね。
Quest 3は横並びで3枚のウィンドウを表示させることができる”所定のウィンドウ”と、好きな場所に固定できる”空間配置のウィンドウ”があります。もちろん所定のウィンドウを移動させて空間配置にすることもできます。

この”所定のウィンドウ”はQuest 3のメニューに紐づいているので、メニューを開き直すことでウィンドウ位置を目の前にリセットすることができます。

ただ、”空間配置のウィンドウ”は移動しませんので、自分の立ち位置を変えると固定していたウィンドウがめっちゃ遠くにある、みたいなことになります。そしてそれを掴むにはポインタで行う必要がありますが、いかんせん遠い位置に存在していてサイズも小さいので難しいです。
そしてX軸の移動が死ぬほど面倒くさい(すぐにトラッキング範囲から手が消える)です。
とはいえ空間固定していて欲しい場面もあるので、指定のウィンドウの位置を簡単にリセットできる機能を追加してほしいですね。

そして一番ガッカリなのは、
画像や動画などのファイルを複数ウィンドウで開けないことです。

空間ビデオに至っては他のアプリまで強制的に非表示にされるので論外なのですが、せめて普通の画像や動画、PDFといった”ファイルのプレビュー機能”は、OS自体の制約(6ウィンドウ)内であれば無制限にウィンドウを増やせるのが当たり前だと思っていました。非常にショック。

VRゲームは圧倒的

これはXREALのようなARグラスでは体験不可能な領域です。

言わずもがな、そもそもQuestは本来VRゲーム機としての系譜ですから、MR機能の弱さばかりを叩くのも可哀想というものです。
空間コンピューティングとしての最高峰の体験を享受したいなら、黙って50万円超えのVisionProを買え、と。

VRゲーム機として見ると、Quest 3はさすがです。画質、視野角ともに申し分ないですし、PCVRとして使用するのみならずスタンドアロンでもかなり満足度の高い体験を得られます。

唯一の問題点としては、そもそもVRゲームが面白くない、というくらいでしょうか。

VR界隈の人に怒られそうですが、ぶっちゃけおもろいゲームなくないですか。

そりゃあもちろん、ビートセイバーとかアルトデウスとか、人気のゲームは一通りプレイしてみましたよ。しかしあれは初回の体験に感動こそすれど、ゲームの内容にハマれる要素がないので、リピートしようとはならないんですよね。
その初回の体験というのも、結局はゲームそのものというよりはVRであることのほうが要素として大きいですし。

VR端末を買った人の多くが熱狂しているVRChatも、あれは別にゲームではなく人と関わるのがメインのソーシャルネットワークの派生品(いわゆるメタバース?)じゃないですか。
別にVR端末を買う人がみんな、美少女アバターになったり、美少女アバターの人と話すのが楽しいと思うわけではないですよね。

まぁとにかく、VRゲーム機としての完成度が高いのは疑いようのない事実ですが、VRゲーム市場があまり盛んとは言い難いのでぶっちゃけそれ目的に7万出すのってどうなんでしょうね、といった感じ。

仮想ディスプレイとしての使い方

正直言ってMeta Quest 3やXREAL AirをPCモニタの代替として使っている人はマゾなのではないかと思います。

XREAL AirとMeta Quest 3の両者とも、物理的な制約を無視して仮想的にマルチモニタ環境を作り上げることができます。しかし、実際に表示する画面はせいぜいフルHD画質までが現実的で、4K画質にすると細かい字が読めません。

ここで皆さんに質問なのですが、もし潤沢なスペースのある部屋に住んでいると仮定して、「4枚のフルHDディスプレイか、1枚の4Kディスプレイのどちらかを貰える」と言われた場合はどちらを選択しますか?

僕は迷わずに1枚の4Kディスプレイを選択します。
確かにフルHDのディスプレイを4枚配置すれば、4Kディスプレイと同程度の作業スペースがあります。
ただ、30インチほどのモニタが4枚も並べれば視線を移動させる範囲が非常に広く首への負担がかかりますし、全体を視認することが困難になります。

例えばもしこれがラップトップで使用するというのであれば非常に良い選択肢だと思います。ですが、既に4Kディスプレイを所持している人がわざわざVR・AR端末で仮想的にマルチディスプレイを実現するのはあまり実用性はないかなというのが所感です。普通に重いですし。
となると、必然的に外で使うのが現実的ではないQuest 3を使う場面は?という問題になります。

そもそも何を期待していたのか?

端的に言えば、ソードアート・オンラインというアニメの劇場版「オーディナル・スケール」に登場するARウェアラブルデバイス・オーグマーみたいなものが理想です。

もちろん神経を通じて映像を映すとかフルダイブなんてSFの話ではなく、
日常生活を送りながら常に視界の中に必要な情報を置けて、たまに大画面でコンテンツ視聴できるような端末です。

機能面ではQuest 3のほうが真に迫る可能性は感じているものの、空間コンピューティングが全然ダメだし気軽に装着できない、
利便性ではBeam Pro + XREAL Airが気軽に情報を視界内に表示できるため上手ですが、NebulaOSの発展とカメラ搭載型グラスの低価格化が課題かなといった感じ。

どちらにせよ、現段階では両者とも発展途上の技術であり日常生活を一変するゲームチェンジャーにはなり得ていないというのが所感です。

新時代の老害になるな

プライムセールという機会があったからとはいえ、僕がこうしていろいろなAR・MR機器を購入したのは、今後確実にそれらの時代が来るからです。
PCまで置き換わるかは懐疑的ですが、少なくともスマホ・タブレットからAR・MRウェアラブルデバイスへの転換期は10数年くらいで訪れるでしょう。そのときの僕たちは、まだスマホがなかった時代を生きてきた今の老人と同じポジションになります。空間コンピューティングがない今の時代を生きる僕たちが、将来的にそれらを使いこなせず「スマホのほうが便利だー!」と叫ぶ老害にならないように、できる限り新しい技術には積極的に触れなければ不味いと思う所存です。


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