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【「正」とは】 NODA MAP 「正三角関係」

空を信じよう。誰もが同時に見上げる空を

俯いて泣くこと勿れ。涙を流している時こそ、空を見上げる。すると、涙は火照った身体を冷やすように流れ伝い、そして大地に帰っていく。

8月に落とされた原爆の日を偲んで、花火は今年も各地で上がった。戦中で、花火師たちが上げたくても上げられなかった花火たちだ。それを見上げて、人々は歓声を上げる。

花火がもう二度と落とされないように。花火が、花火として打ち上げられる世界であるように。

でもそれはロシアの物語です。大和民族は、真実の物語を追い求めましょう

イワンが物理学者であること、数式が多数出てくること、球形等が原子のモチーフであること等々から、かなり早い段階から原爆の話であることは分かった。「カラマーゾフの兄弟」が下敷きにあることも、上記のセリフではっきりした。

「カラマーゾフの兄弟」未読なのが悔やまれるが、三兄弟、父殺し、三角関係等、とても忠実に筋を追っているらしい。花火師一家の名前が「カラマツ」族なので、野田作品に必須の言葉遊びもなぞらえている。

これまでの野田作品だと、ラストに向けて少しずつ本当のモチーフが浮かび上がってくるものが多かった。こんなにはっきりと、しかもセリフでバラしてしまうのは、何かの意図があるのだろうか。

それが分かりそうなモチーフが散りばめられているのに、ちゃんとした姿がまだ見えてこない。

在良が崇拝する「現人神」と、威蕃が触れているサイコロを振らない「神」。

「ウワサスキー夫人の声が今聞こえているからといって、ウワサスキー夫人が今生きているとは限りません」から感じる、正史とは勝者の歴史であること。敗者の声が蹂躙され、勝者の声だけが大きく聞かせられることも多々あること。

敗戦国の少年は口を結び、亡くなった弟を火葬するために、列に並んでいる。このモチーフが最後の最後に出てきた時に、涙腺が緩んだ。舞台上で、彼は多くの電報を、自分の声ではない他者の声を運び、最後は物言わず、ただ我々の方を見つめていた。

死の灰が降り、聖職者である三男は黒焦げになる。アメリカの「何してハッタン?計画」は、実行される。「カトリックだからかまやしない」と浦上の十字架を揶揄して、原爆は落とされる。

あの戦争の後、誰が何について、どうやって、裁かれるべきだったのだろう。

友人らと食事後、宿に帰ったら、レバノンに対するイスラエルの攻撃が始まっていた。共時性に暫し漠然として、眠れなくなった。あの地で、人々は今なお、笑顔で空を見上げることができない。人はまだ、空から地上へ花火を投下し続けている。

ロシア、アメリカ、日本の関係は、正三角形ではなかった。
三兄弟が冒頭でなぞっていた三角形も正三角形ではない。
劇中の裁判で争点となっている「グルーシェンカ」と、父子の関係も、正三角形ではない。三角関係ですらないようでもあった。

3人で紐を持って三角形を作り、その紐を持ちながらダンスをすると、三角形はどんどん姿を変えていく。一瞬正三角形も出てくるけれど、概ね歪だ。

「正」とは、それくらいに歪なものだ。

その歪さを認識しながら、大きな声だけに流されないように、自分の頭で考え続けなければ。

長澤まさみちゃんの二役が圧巻だった。途中の長椅子でのスーパー早替えやら、二役が出会ってしまう場面の早替えやら、声が出そうになった。しかも男女の二役で、男の時は同性愛者の聖職者、女性の時は花街の女。これがガラッと切り替わるのだ。すごい以外の語彙力が見つからない。


これまでのNODA MAPは以下の通り。同じく長崎の原爆をモチーフにしている「パンドラの鐘」の感想を書いていない自分のばかばか。(下書きに入ってた)



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