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【くれない手紙とは】 野田MAP 「Q: A Night at the Kabuki」

どうか私を、名も無い兵士として葬らないでください

野田秀樹さんと同じ時代に生まれてこられて、本当に良かった。

悲しくて美しいラストの余韻に浸りながら、野田さんの新作を観るたびに思う感想を、やはり今回も抱いた。

本作のモチーフの1つは源平の合戦。今の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」ともシンクロしている。

そして、時期は8月。冒頭の、「それからの愁里愛ジュリエがつぶやく、「あなたがとうとうくれなかった、くれない色の恋の文」が何を暗示しているのかは一耳瞭然。

そこに紙ヒコーキが飛んで来れば、そりゃ「風立ちぬ」を否が応でも思い出す。

そこにさらに、「ロミオとジュリエット」が混ざりあい、さらに随所に散りばめられるのはQUEENの名盤「オペラ座の夜」の楽曲たち。大好物がハレーション状態になりました。

1幕は、野田さん特有の言葉遊びが満載な中、「ロミオとジュリエット」のプロットが、両家を源平に置き換えて、かなり忠実に描き出されます。

源の愁里愛ジュリエの乳母は、便利な乳母ウーバーになり、平家の「名を捨テロリスト」たちは、匿名という武器をもち、テロ行為に走る、という現代と重ね合わせも、随所に飛び道具のように刺してくる。

平家の瑯壬生ロミオは、愁里愛ジュリエに「あなた、名前をお捨てになって」と請われて名前を捨て、さまざまなすれ違いを経て、最後には無名戦士となって戦いに赴いていく。

2幕では、そんな名を捨てた戦士たちが極寒のツベリ野で一人ずつ死んでいく。

でも、たとえそれから何十年が経過したとしても、「歳月が文字を消してしまう」ことはない。

歴史が過去のものになろうとも、名を刻まれることのない数多の犠牲者が紡ごうとした言の葉の文字を、ただ忘却のうちに葬ってしまわないようにしたい

だからこそ、伝えていかなければならないのだ。埋もれさせてしまわずに。

面影の言葉は、周りには聞こえない。でも、当人には届く。

私はもう、あなたをもう愛していない

こんな言葉で始まる最後の手紙のバックに流れるのは、QUEENの「Love of My Life」の冒頭の歌詞。

Love of my life you've hurt me
You've broken my heart and now you leave me
Love of my life can't you see?
Bring it back, bring it back
Don't take it away from me
愛する君よ、あなたは僕を傷つけた
僕の心を粉々にした挙句に、僕の前から去っていく
分からないか?
返して欲しい。僕からこの愛を、どうか奪わないで。

「もうあなたを愛していない」という言葉とは真逆な本心が歌に込められていた。そうやってどれだけの人が、本心を手紙に書けぬまま、亡くなっていっただろう。どれだけの人が、今尚、命を落としているのだろう。

舞台装置も、俳優陣も、全てが美しかった。今回も見られて、よかった。

初演時のnoteはこちら。

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