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181/366 【パックからのエール】 NTL「夏の夜の夢」に感じた現在の混沌へのエール

麒麟がまだ帰らない日曜の夜、ナショナルシアターライブ(アットホーム)の「真夏の夜の夢」を見た。

コロナ禍で毎週素晴らしい作品を配信してくれているこのシリーズ。これまでにも「フランケンシュタイン」と「欲望という名の電車」は瞬きする間も惜しいくらいにガン見した。配信だから、見逃したら何度でも見られるにも関わらず。

シェークスピア作品の中で「真夏の夜の夢」が一番好きだ。

人間界と妖精界が隣り合わせで存在するコロボックル感も好きだし、その世界の中でも、人間は相変わらず愛すべき愚かさで、我がままに生きている、その普遍性も好き。

妖精も人間のように嫉妬したり、いたずらしたり、勘違いでトンデモ事件を起こしたりする。完璧な人(妖精も)なんて面白みがなく、相手の思い込みや思慮の浅さと言った黒い部分に人は愛を感じることを、ピリリとしたユーモアで描いていく。人間の本質は16世紀から全く変わっていない。きっとその前も。そしてこれからも。

新解釈も多い。

媚薬で起こる恋人の取り違えはシェイクスピアが良く使う手法だが、その取り違えが本作では男女間だけではなく、男男間、女女間でも起きる。見つめ合うディミトリアスとライサンダーとか、最高かよ。

妖精の王妃としがないロバ役者の媚薬による恋も、王様とロバ役者の淡い(?)恋物語となっている。「プリティウーマン」的なシャンパングラス掲げてバブルバスでイチャイチャとか、ムォほっと変な声が出た。日曜夜に一人でパソコン見ながら変な声を上げる40代。神様から見たらさぞかし滑稽に違いない。

ちなみにこのロバ、他にも色々やばい。コメディの間のセンスがピカイチ。友達になりたい。

舞台装置も驚愕だ。なんせ装置がベッド以外ほぼないのだ!

アリーナ会場のようなだだっ広い1階席のあちこちに、セリ機構を備えた小さな舞台が島状に点在する。王宮が1つの島、森の中の広場はまた別の島。その間を移動するには、一度舞台から降り、客席の間を「はいはいごめんよ」なんて言いながら練り歩く。時にお客さんイジリもやりとりもその間に入る。(パックに対し、お客さんが「僕、君と同郷!」って叫んだ時のパックの返し、最高)ライブ感が半端ない。

観客からスマホ借りてチャチャを入れつつ小道具として使い、最後にはそのスマホで役者らが舞台上でセルフィーを撮って返す。これも客席との距離感が近いからできることだ。

エアリアルダンサーの「フェアリー感」もステキ。

1階席だと、宙を舞うフェアリーたちを見上げることになる。2階席だと、フェアリーと同じ目線。絶対2回はオカワリで観るだ。島にしたって、どの島付近で観るかで印象が全く変わる。

島は文字通り島で、その周りをぐるりと客が立っている。あ、言い忘れていました。そうなのです。アリーナは、オールスタンディング席なのです。よって、スタオベはありません。だってそもそも立っているから

360度どこからでも観られている感覚。背中から頭頂から、全てのアンテナを張り巡らせ、それを100%の状態で弛緩させることなく続ける。「欲望と言う名の電車」のステージングもそうだったけど、数ヶ月公演し続けたら、楽日以降は廃人になりそう。

パックの最後のセリフで、

ここで観たのは夢まぼろし。間違いもご容赦を。楽しんで頂けたならばこれ幸い

(意訳)があるが、これは、この1ヶ月でどんどん増えてきている配信を使ったエンタテインメントへのエールにも感じる。

配信での臨場感はありえるのか?ただの映像記録ではない、配信だからこその新たな舞台づくりは?

NTLの舞台はどれも、映像だからこそできるこだわりのある撮影をしている。それをさらに進めていくことはできるのではあるまいか。

今、誰もが新しいことを試している。だから間違いとか失敗とか想定外が許される。だったらこの期間に何でも試してみる方がいい。

そんなメッセージをラストで感じ、ジーンとしている間に島状の舞台面が客席と同じレベルまで降りてきた!そして役者も観客も皆同じフロアに立っている!

密!!!なパーリーフロアが出来上がっている!

あああ、このパーリーフロアにいたかった!しばらく無理な演出だわ、なんて悔しくなった。

いつの舞台かと思ったら2019年。極めて新しい作品を無料で公開。間違いなくギフトだ。

これ、まじで生で見たかったなあ。(しつこい)

日本語字幕はないけれど、翻訳本は多々あるのでそれを参照しながら見るのも良いだろう。でも多分不要。劇中劇で迷子になっても、あそこはまあ... ぶっちゃけ不要だから

配信はイギリス時間の7/2夜19時まで。日本だと7/3の午前までは観られる感じ。

ああ、良い時間だった。

明日も良い日に。





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