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354/366 【今宵の月も舟】 大河ドラマ 「麒麟がくる」 第36話

十兵衛は鳥じゃ

男泣きに泣く十兵衛の背中を見送りながらこう呟いて、彼を引き留めなかった公方様の透明な涙に、こちらも涙でありました。

殺すと脅すことも出来たでしょう。でも、味方になってくれない「十兵衛はどこまでも十兵衛」だからこそ、籠から放って上げたのでしょう。

他にも色々泣くシーンはあったろうに、これまでで一番号泣している十兵衛もまた十兵衛らしい。

詩歌フラグがちょいちょい回収されていたのも個人的にはとても面白い回でした。

渡水復渡水
看花還看花
春風江上路
不覚到君家

帝のところで読まれていた漢詩。漢字で読むと一層素敵です。こういうものを見るにつけ、中学高校の古典の授業の意味はこういうことだな、と思うのです(その頃テキサスにて、ほぼ独学)

レ点だの、「一」だの「二」だの、なんとなくしか分からないけれど、ルールを知っていれば感じられるものがあるのです。

十兵衛夫婦のところで出てきた万葉集の詩も素敵。

月は船  星は白波 雲は海
いかに漕ぐらん 桂男は ただ1人して

今宵、窓の外にはほっそいほっそい三日月が出ています。あの三日月にもきっと誰かが立っていて、焉んぞを目指して漕ぎ出しているのでしょう。寒い冬の夜だからこそ、星の海も綺麗に見えます。

帝出したり、公方様と十兵衛を訣別させたり、描いていることの重要性は重々わかりつつも、その裏で三方ヶ原だの弾正さんの戦だの、画面に出てくる事柄以上に極めて大事な歴史イベントが繰り広げられているわけですが、そちらの扱いがちっさいのは、もはや仕方ないですよね。だって十兵衛そっちにいないんだもの。

その「そっちにいない感」を埋めるのが詩歌ってことの... なんとも言えないパラレルワールド感。

主観が違うと、こうも歴史の表現は変わるのか、と思い知った回でした。

明日も良い日に。


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