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【蜷川幸雄さん7回忌追悼公演】 MUSASHI - ムサシ

恨みの鎖を縛るのは人。ならば断ち切ることも人にはできる

巌流島の戦いの後、もしも佐々木小次郎が生きていて、リベンジマッチを挑むべく武蔵を見つけ出したなら?というwhat ifから始まる物語。

巌流島の決闘から6年後。ある小さな禅寺で、寺開きの参籠禅が今まさに始まろうとした瞬間。

参加者の1人である武蔵をようやく見つけ出した小次郎が、果たし合いを迫る。そして決戦は、参籠禅が開ける3日後に設定されるが...

巌流島がフェアで無かったことへの恨みを事あるごとに口にする小次郎。彼に対して武蔵は言い放つ。

ことばことばことば。お主は言葉はかりじゃ

同じく参籠禅に参加している柳生宗矩は、何かにつけて能を舞う。その新作能のテーマは、かちかち山で殺された狸の子どものコダヌキの仇討ち。

他でもお能メタファーが入れ子のように効いてくる。幽玄への誘いは、ど頭から始まっている。

冒頭、闇に竹林がうっすらと現れ、奥に進んで行くと、ぼんやりとお寺の姿が見えてくる。ここは夢か現か?幻想的な旅路の始まりに、贅沢な尺が使われている。そのゆったりとした歩みが無ければ、ほのかにたゆたう幽玄感は生まれない。

そこからいきなり昼間のお寺にパッきりと切り替わるのだが、その照明もとても美しい。木漏れ日が寺の板間に落ちる様子が、まるで青天井の劇場にいるようだった。ざわざわと泣く竹林然り。

人間界を解脱した白石加代子さん、解脱した方々ともやりとりができる吉田鋼太郎さん、解脱した方々といつも接している半妖みたいな藤原竜也さんに混じって、人間界代表!みたいな溝口淳平さんの小次郎がみずみずしかった。

人間的に紅一点の鈴木杏ちゃんですら、口上を交互に吟じていく白石加代子さんとのお能のシーンでは、もはや加代子さんとの区別がつかなかった。それくらい、口調が似ていた。解脱完了か?!

生きている人間が好きという芝居にしてみました。

負の連鎖を断ち切ること。恨みという言葉にただしがみついて生きていることの無意味さ。

死んでみると分かります。生きていることの煌めきが。

蜷川さんがまた問いかけてきているように感じた。もう7周忌なんだな。

良い日であろうが、つまらない日であろうが、明日も生きよう。

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明日も良い日に。

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