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沢山の見知らぬ応援を背に

その日は、朝から地に足が着いていない感覚があった。いつもよりも随分早起き、という非日常感もあっただろう。

目覚ましに無理やり起こされ、珈琲未摂取の未覚醒状態で身支度を終え、前日夜に準備した小型スーツケースを押してマンションの外に出た。

12月早朝の空気は、しゃっきりと冷たい。ディズニーランドの行列に並ぶには辛いが、タクシーを呼び止めるまでだと思えば、悪くはない。

日暮里駅までタクシー。そこから成田空港へは35分くらい。余裕だ。

… なんて悠長に構えていたら、そういう時に限ってタクシーが来ない。いつもはかなりの台数が走っている目抜き通りなのに、全く来ない。たまに来たと思ったら、同じ赤でも、少し薄めの回送の文字が光っている。近くまでくれば回送の薄紅と空車の真紅は判別できるが、悲しいかな、両目合わせても0.5あるんだかないんだかの視力では、ギリギリになるまで空車だと信じて手を上げ続けるしかない。

信号が赤になり、青になり、また赤になる。色が変わる度に、じわじわと焦燥感が募り出す。あれ?私、もしかして遅れそう?

ドキドキがピークに達した頃、ようやく1台、真紅の空車がやってきた。

「法に抵触しない範囲で急いでください」とお願いすると、心強く快諾してくれる。わたし、怖い顔していたのだろうか。まあ良い。これでどうにかなるなら悪そうな人相の一つや二つ、惜しくはない。

運転手さんの頑張りのおかげで、ギリギリで日暮里駅に滑り込み(しかもスカイライナーに近い側!)、窓口のお兄さんに、「1分後のスカイライナー、ください!」と半叫ぶと、「満席です」という想定外の無慈悲なお返事。

「… 同じ額で構いません。立っていってもいいですか?」

「申し訳ありません、座席指定のみなのです。」

ふがああああ、運転手さん、ごめんなさいぃぃ。しょんぼりしながら次のスカイライナーの切符を買うも、到着時間を確認すると、搭乗時刻の5分前。

あれ?あれれ?これ、やばくない?でも、あの優しい運転手さんの努力を無駄にするわけにはいきませぬ。

とりあえず、空港へ向かおう。そこからは更に努力あるのみ。到着次第頑張れるように、車内でカバンに仕込んだキウイと全粒粉のスコーンを食べよう… いや、ここは我慢か。何しろ空港に到着したら、私は全速力で走らねばならぬ。スコーンにお口の中の水分を奪い取られた直後に全速力で走ったら、脇腹が痛くなるのは目に見えている。だめだめだめ。我慢だイシマル。もぐもぐタイムは飛行機に乗ってからにしろ。

走る姿をイメトレしつつ、まずはゆったり過ごす。隣に座った外国の方がお話し相手をしてくれたお陰で、やや平常心を取り戻す。ありがたやありがたや。

そしていよいよ決戦の地、成田空港が近づいてくる。隣の外人さんに、「わたし、ギリギリなのでドアの近くに行ってるね」とご挨拶をして移動する。

だが既にドアの前には4人ほど並んでいらっしゃる。ここで何も言わずに肩から突っ込むのは失礼だ。第一通してくれはしまい。こういう時は、正直が一番だ!

「すみません、わたしギリギリで、到着次第、猛ダッシュしなきゃならないので、1番目に降りてもいいですか?

ドアの真ん前に立っておられた女性は、ちょっとびっくりしたように振り返ってから、大きく頷き、わたしの目を見てこう言った。

「どうぞ!わたしはそこまで急ぎじゃないので!」

プシューっとドアが開いたと同時に、当該スカイブルーのコートの女神と、その会話を聞いていた(そりゃ聞こえるよね)後ろ数人の乗客の「頑張ってね!」という暖かな応援を背中に受け、わたしは猛ダッシュを開始する。

ここで猛ダッシュしなくて、いつ猛ダッシュするというのだ。これで乗れなかったら、この応援も、急いでくれたタクシーの運転手さんの誠意も全てが無駄になる。がんばれイシマル。こういう時のために、あなたはマラソンを走っているんだろう(違)。

小型のスーツケースをどんがらどんがら走らせて、いしまるは走る。なんせ空港第3ターミナル。遠い。でも走る。「こんなRPMに耐える仕様にゃなってねえ!」というコロコロの悲鳴が聞こえるようだ。でもここで止まるわけにはいかない。がんばれスーツケース。負けるなコロコロ。

この猛ダッシュが功を奏し、わたしを最後に、機体へ向かう送迎バスが出発した。

ありがとうタクシーの運転手さん。ありがとう、スカイライナーの女神さま。ありがとうコロコロ。ありがとう空腹。ありがとうありがとう。

人は人に救われる。人の応援は、人の能力を何倍にもしてくれる。自分もそういう応援をできる人でありたいと心から願う。世界は優しさに満ちている。

折しもこの日は冬至の前日。バッタバタだけどあったかな年末となりました。

翌日の冬至は、来たる春への思いを馳せ、宇佐神宮へ。

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ここの空気感、好き。清浄の地。朝からの禊の雨が、参道に入った瞬間暫くやみ、その後に和らぎの雨になりました。

雨と共にハラハラと黄色い葉っぱが舞っています。写真には写らないや。

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足元は黄色い絨毯。

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水分を含んだ苔が好き。深い深い緑。リスさんがその上を歩いたら、もふもふのしっとりとした音がするだろう。一瞬だけリスになって、雨つぶがキラキラ光る苔の上を歩いてみたい。

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葉っぱぺよーん。笑。

ここだけ、パーーーーーッとスポットライトが当たったように明るくなりました。

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船着場。どこへ向かう船だろう。どこからいらっしゃる船だろう。または、舞台の花道。劇場の花道はタラップでもある。この日は晴れ舞台ではなかったけれど、空舞台は空に通じるものがある。

帰りに安心院のワイナリーに立ち寄り(近いことすら知らなかった!)お神酒代わりのワインを買い(試飲もたくさんして)、福岡へ帰りました。

色とりどりの福を頂いた1泊2日の来福でした。

年末だね。


言葉は言霊!あなたのサポートのおかげで、明日もコトバを紡いでいけます!明日も良い日に。どうぞよしなに。