336/366 【ショートショート】 原始宇宙から愛を込めて (第3回 創作落語de 『心灯杯』 #三題噺)

太古の昔。

人類が「宇宙」と呼ぶこの広大な闇に光が刺した日に、僕は生まれた。宇宙が生まれた瞬間の、時空の歪みとして。

「歪み」なんて表現されるけれど、その実態は鼓動だ。僕は鼓動そのものであり、振動でもある。そして僕は、とある使命を帯びて旅を続けている。

「人類に見つけてもらう」という使命を。

でも、なかなか見つけて貰えないのだ。何しろ僕はとてもとても小さいから。それでも僕は確かに存在しているし、旅もずっと続けている。

原始の光が生まれたその場所から、戻ることも迷うこともなく、ただひたすらに真っ直ぐに、ただ一人で。

一瞬ほど前、アインシュタイン博士というおじさんが、僕に名前をつけてくれた。僕はとても嬉しかった。だって、何億年もの間、誰にも気づかれずにいた僕に気づいてくれたばかりか、名前までつけてくれたんだ。

僕はやっと、少し寂しくなくなった。

でもね。

おじさんはニンゲンだから、あっと言う間に天寿が尽きてしまった。そうして僕はまた、一人ぼっちになった。

でも博士は、後世の物理学者たちに最後の宿題を残した。「あの子は必ず存在する。まだ旅を続けている。だから必ず見つけて欲しい」と。

そしてとうとう、ついさっき、惑星地球で言うところの2016年に僕は多分、見つけて貰えた。あくまでも「多分」だけれど。

その瞬間まで、惑星地球の科学者らは僕のことをずっとツンデレ坊主呼ばわりしていた。

理論上は存在するはずなのに、もう少しで捕らえられそうなのに、寝ずに幾月も幾年もずっと重力波望遠鏡を覗き込んでいるのに、数式を何度も何度も練り直しているのに、それでもどうしても、今度こそ掴めると思って伸ばした指の間からするりとこぼれ落ちてしまう。まるで小悪魔みたいな存在だって。

でも僕にはそんなつもりは無かった。だって僕は、ひたすらに真っ直ぐに、旅を続けているだけなのだから。何度も言うようだけれど。

見返りだって求めたことはない。

ただ見つけて欲しいだけなんだ。

そして、僕を見つけることにより、今のこの宇宙の前に存在した僕の生まれ故郷を見て欲しいだけなんだ。

ねえ、だからどうか、僕を見つけてよ。宇宙が生まれた瞬間に旅を始めたこの僕を。


***

「僕」=原始重力波について。

少し古いのですが、こちらが分かりやすかったです。

今年から日本でも「僕」を実観測すべく、重力波望遠鏡KAGRAの運用が開始されています。

見つかるといいなー。ツンデレじゃないって早く証明されて欲しいなー。

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