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パリのアメリカ人

戦後間もないパリ。まだ街の至るところに戦争の爪痕が残っている。生きて還ってきた夫や息子との再会に涙する家族がいるかと思えば、角を曲がればわずかなパンを求めて行列する人もいる。皆が一生懸命な中での、ほんの小さな思いやり。そこから小さな物語が始まる。

夕陽の残照が消え、代わりに橙色の灯が灯るカフェでは、多くを失った人々が、それでも歌を歌う。停電にも負けず、ありったけのろうそくを灯し、今、生きていることへの賛歌は続く。

…こういった描写が、言葉ではなく、すべて踊りで語られる。

義務感と愛情のせめぎ合いや、恋の始まりのドキワクな駆け引き、愛する人の思いを優先するのか、自分の愛を優先するのか、という葛藤。これらがすべて、バレエで表現される。クラシカルなバレエだけではなく、ジャズやらコンテンポラリーやら、(つーか、モンドリアン!)ありとあらゆる動きが有機的に溶け合い、見たことのないバレエナンバーがこれでもか!と続く。

セットもなんと素敵だろう。歩くとすぐに迷子になる、パリの悪名高い放射状の街並みが、大道具小道具、プロジェクション等をこれまたシームレスに組み合わされて再現されている。アップになったり、引きになったりの被写界深度も含めて、時空間が変幻自在に七変化する。斜めの大道具の使い方も大好き。これぞボブ・クローリー!って感じ。(ミュージカル「アイーダ」のセットが大好きでした)

ギャラリーを巡ったり、セーヌで待ちぼうけをくらったり、二人の距離が近づいたり遠ざかったり、という部分も一切言葉がない。すべてが踊りで表現される。そのスムーズな時間経過と各人の思いの旅路にただただため息が出る。

酒井大くんのバレエの「型」がとても美しかった。滞空時間、滞空中の身体全体のラインも綺麗なんだけど、一連の動きをピタッと止めてきちんと見せるのもステキだった。

そして、ガーシュインの音楽!!!!!ガーシュイン38歳という若さで早逝されていたのを今回初めて知った。彼がまだ生きていたら、ほかにどんな音楽が生まれていたんだろうと感慨深いが、同時に、でも、その若さでこれだけ沢山の思わず踊りだしたくて脚がむずむずするような楽曲を残してくれたことにも感謝した。

ほんの少しお手伝いしただけだけれど、この作品に関われて、本当に幸せでした。Who could ask for anything more?!


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