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生きているといいことってあるもんだなあ。

(2062字)

長男、息子1さんは昨年春ごろより一人暮らしを始めた。
当初は

「近くに寄ったから。」

などと言って時々帰ってきて、一緒にお昼を食べたり
私が作った夕飯を少しぶんどって帰ったり(言い方!(笑))
彼も慣れない一人暮らしでちょっと心細さもあったのかたまに顔を出していたのだが、夏を過ぎたころからだろうか。
とんと帰ってこなくなった。
どうやら一人暮らしに”慣れた”ということらしい。
近くに仲のいい友達が住んでいて、お互いの家を行ったり来たりしている様子。

まあ、元気でちゃんと仕事もしているなら、こちらは全然いいんだけどね。

しかし、これは元からだけど、彼とはまあ連絡がつかない。
ラインをしても基本素っ気ない返事しか返ってこない。
既読スルーは当たり前。
下手をすると未読スルーなんていうこともあって
それならば、と電話をするが電話にも出ない。

用事があって連絡を取りたい時もあるのに
本当に困ってしまう。

昨年末も、

お正月どうする?帰ってくる?

とラインをしたが、いつまで経ってもなしのつぶて。
相変わらず電話にも出ない。
ここまで連絡を取れないと、なんだか心配になってきた。

思い余って母に相談すると

「え?先週1さんうちに来たけど?」

とあっさり言われた。
母曰く、お米やら野菜やら、たくさん持って帰ったらしい。

はああああ?
どういうこと?

と、一瞬イラッとしたが、まあ元気だということなのだろう。

その後も結局連絡のとれないまま、お正月は過ぎた。
母が十分食料を持たせたということだから、餓死することはないはずだ。
もう26。
四捨五入したらアラサーだ。
いつまでも彼が小学生のような気持ちでいるけれど、私が心配しすぎなのかしら??




それは先日、私が仕事に行く直前のこと。
上着も着てあとは出るだけ、となった時にインターホンが鳴った。

「誰よ?こんな忙しい時に!」

と思って画面を見る。
もう一度まじまじ、と見る。

なんとそこには1さんがいた。

「ただいま。」

毎日家に帰ってきてるかのように、普通のテンションで言う。

もー!!!
なんだってこんな時に突然来るんじゃい!
ただいまじゃないわー!!!

1さんに言いたいことが山ほどあって、口からあふれ出しそうだったが
もう仕事に行く時間が迫っていたこともあって

「もう、なんで連絡しても返事しないのよ!私もう出かけなきゃいけないから話す時間ないんだけど!」

とイライラMAX、しかしちょっぴりホッとした気持ちでわーわー言うと

「これ・・・」

とロフトの袋を渡された。

え、予想外の展開。

「あ、ありがとう。」

渡されたのはどうやらここのところの不義理を詫びるプレゼント、らしい。
なんだ。いいとこ、あるじゃん!

たくさん文句を言ってやろうと思っていたのに出端をくじかれた。

「もうちょっと早く来てくれたらお昼、一緒に食べられたのに。」

と言うとそれには答えず

「送って行くよ。もう出るんでしょ?」

という車で来ていた彼から思ってもみなかった提案がなされた。

「うん、ありがとう。」

私の気持ちはすっかり凪いで、彼の車のシートに身を沈めた。


仕事場までの車中でいろんな話をした。

年末年始、仕事が忙しかったこと。
少しずつ仕事が認められていること。
キャンプに行ったついでにじいじばあばの家に寄ったこと。
3人兄妹の中で一番心配な2さんの進路について。

などなど。

「忙しかったのはわかるけど、返事ぐらいちゃんとしてくれないと困るよ。心配するし。」

と言うと

「ああ、ごめん。気をつけるわ。」

と言いながらブレーキを踏んだ。
車が赤信号で止まる。
話をしながらも彼はオーディオの選曲に忙しい。

ふぅ。
彼はこれからも気をつけないだろう。
きっと。



仕事が終わって家に帰り一息つくと、昼間1さんがくれたプレゼントのことを思い出す。
なんだかんだ言っても息子が自分で働いたお金で買ってくれるプレゼントというものはそれがなんであっても嬉しいものだ。

一体、何が入っているのだろう?

おそるおそる開けてみると出てきたのは、
サーモスの耐熱カップとカモミール&オレンジティー、
そしてゼラニウムとラベンダーの香りがするハンドクリームだった。

寒い冬、お茶好きの私のために考えて選んでくれたのであろうか。
きっとカフェインがあまり得意じゃないということを知ってのハーブティーだ。ラベンダーとゼラニウムのハンドクリームも落ち着く香りでとても気に入った。

でもちょっと待てよ。
これって出木杉くんなプレゼントのチョイスじゃない?

もしかすると新たな彼女ができた!?と思って

今日はプレゼントありがとう。これって1さんが選んだ?

とラインしてみる。
するとすぐに

俺の独断と偏見で選びました

息子1

と返ってきた。

なあんだ、すぐに返信できるじゃないの。
しかし彼女ができて選んでもらったわけじゃないのかー。

柔道初段、剣道三段、私より20センチは背の高い彼が
保温カップやハーブティー、よい香りのハンドクリームをロフトで選んでいるところを想像したら、ふふふっと笑ってしまった。

今夜はなんだか気持ちがほかほかする。
生きているといいことってあるもんだなあ。






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