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よわむし

田舎育ちの僕は高校に電車で通っていた。
本数が少なく、朝の時間帯だけ9車両だった。
前車両の方が空いていて、座るには前の方に行くのが日課だった。
そこで仲良くなったのが歩美だ。
中学の時、特別仲が良かったわけではなく、互いに知っている程度だった。
どちらが先に話しかけたかは覚えてないけど、30分弱の電車の中で色んな話をした。
互いに違う高校に通っていたけれど、学校の事とか友達の事とか部活の事、いっぱい話した。会ったことのない人の名前がそのうち知っている人になっていった。

「告白されたんだ」僕は言った。
返ってくる言葉が何なのか予想は付いていた。
僕は君の事が好きだったし、君は僕の事を好きだった。
分かっていたけど「言葉が欲しかった」
ただ臆病で卑怯者の僕は自分から言うことはしなかった。

そうして僕らは付き合い始めた。
時にはケンカもしたけれど次の日には必ず同じ場所で電車を待っていた。

高校を卒業してからは遠距離恋愛になった。
僕は地元で働き、歩美は都内の大学に進学した。
週末しか会えなかったけど、気が付けば付き合って6年がたっていた。
自然と「ずっと」を意識するようになった。

そして歩美が地元の企業に内定をもらった。
「これで一緒に住めるね」と彼女は言った。

だけど僕は仕事を辞めようか悩んでいた。
働きだして気が付いた事、夢を見つけたからだ。
でもその為には今度は僕が上京しなければならない。

臆病で卑怯者の僕は「何も言えなかった」
何も言えないまま、歩美との連絡は減っていった。

僕は夢を追った。
中学時代からの親友と上京し、ボロアパートで一緒に生活しながらがむしゃらに頑張った。
気が付けば1年がたっていた。
親友が帰省から帰ってきた時の事だった
「地元の駅で歩美ちゃんに会ったぞ」「お前と別れちゃったって言われた」
と親友に告げられた。


「あぁ別れたんだ」って馬鹿な僕は思った


「付き合ってください」「好きだ」「待っていて欲しい」も言えなかったし
「ごめんね」も「さよなら」も言えなかった僕だけど、中途半端なことして君を傷付けてしまった後悔と楽しかったあの頃を思い出して涙が出た。

実感して初めて気が付いた感情
「どうしょうもないくらい君が好きだったって事」
そして
「想いは言葉に出さなきゃ伝わらないってこと」
だから、今度君に会えたら言いたい言葉があるんだ

「ありがとう」

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