ワクチンの発明ー「種痘」

 今から200年以上前の1798年、エドワード・ジェンナーは天然痘ワクチンを開発し、人への接種を始めました。この行為は種痘と呼ばれ、世界各国に種痘の方法が広まって行き、1980年にWHOが天然痘根絶宣言を発表するに至りました。今のところ人類が撲滅できた感染症は、唯一この天然痘だけです。理由としては①不顕性感染が少なく、知らないうちに他の人にうつす可能性が低いこと、②天然痘ウイルスは人以外の動物に感染しないこと、③有効性の高いワクチン開発ができたことの3つが挙げられます。

天然痘とは?

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 天然痘はポックスウイルスによる感染症で、感染力が強く、さらには致死率も20〜50%と高いため人々に恐れられていました。天然痘の記録は紀元前まで遡ります。たとえ治癒したとしても、顔面に瘢痕(かさぶたが剥がれた跡)が残るので、江戸時代には「美目定めの病」と言われ、忌み嫌われていました。
 飛沫により感染し、およそ12日間の潜伏期間のあと、急に発症します。発熱や疼痛が見られる前駆期のあと、発疹期へと移行し、ウイルス血症により死に至ります。ただれるため皮膚からの二次感染も多い疾患です。

ジェンナーはどのように種痘を思いついた?

 古くからイギリスの酪農地帯では、牛痘という病気が知られており、度々流行していました。牛痘は天然痘と同じポックスウイルスによる牛の感染症で、乳房に発疹(ブツブツ)ができます。牛乳を搾ろうと乳房を触った人は、手指の傷などからウイルスが侵入し、牛痘に感染するのです。そして2-3週間ほどで治ります。
 ジェンナーが生まれた小さな村も酪農が盛んでした。ジェンナーが医学を勉強している間に、「牛痘に感染したことのある人たちは天然痘には罹患しない」という言葉を耳にします。晴れて医者になったジェンナーは、たまたま聞いたこの噂が事実であるのか検証を始めたのです。 

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種痘の方法はどのように確立したのか?

 ジェンナーはまず乳搾りで牛痘に罹患した女性、サラの手の水ぶくれの中身の液体を取り出し、ジェンナーの使用人の息子のジェームズ少年に接種しました。その後、この方法を何度も繰り返し、接種する量を増やしていきました。そしてついに、天然痘をジェームズ少年に接種し、少年が潜伏期間を過ぎても天然痘を発症しないことを確認したのです。こうして予防医学の第一歩がスタートしました。
 彼はさらに研究を進め、成果をまとめた論文を投稿しますが、症例が少ないために突き返されてしまいます。そのため、症例を2つ増やし自主出版で『Inquiry』を世に出します。この本はルイ・パスツールやコッホらに受け継がれ、免疫研究を切り開くことになるのです。
 出版から3年後、天然痘ワクチンは世界中で使用されるようになりました。ジェンナーが開発した種痘はこうして大きな成功を収めたのです。しかし彼はワクチンの特許は取らず、より多くの人々に行き渡らせるため。ワクチンが高価にならないようにしました。

天然痘ウイルスの新しい脅威

 天然痘は根絶しているため、現在ワクチン接種は行われていません。そのため、炭疽菌と同様バイオテロの標的になることが懸念されています。天然痘ウイルスはBSL4のアメリカとロシアの研究施設で厳重に保管されているそうです。


出典
日本BD
https://www.bdj.co.jp/safety/articles/ignazzo/1f3pro00000t725e.html
国立感染症研究所
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/445-smallpox-intro.html
朝日新聞
https://www.asahi.com/articles/SDI201909132929.html
MSDマニュアル家庭版
https://www.msdmanuals.com/ja-jp/ホーム/16-感染症/ポックスウイルス/天然痘
秋田大学
http://www.med.akita-u.ac.jp/~doubutu/matsuda/kougi/JALASinOkayama/kougi/Jenner.html
ウィキペディア
https://ja.wikipedia.org/wiki/天然痘ウイルス

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