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武田道志郎
2019年8月2日 21:32
4 衛は公園のベンチに腰掛け、待ち合わせをしている相手を待っていた。 昼間だというのに、公園の敷地内には誰もいない。 その理由は、天気が曇り始めたからというのもあるかもしれない。 だがこの公園は、利用する者が元々少ない。 仮に天気が雲一つない晴天であったとしても、おそらく誰も立ち寄ってはいないであろう。 衛は、その人通りの少なさに目を付け、よくこの公園を待ち合わせ場所に選んでい
2019年7月30日 21:46
3 ──某所マンション、二〇三号室。 その玄関の扉を衛が開くと、中から味噌汁の芳醇な香りが漂ってきた。「ただいま」「おかえりなさーい!」 帰宅を告げる衛の言葉に、明るく無邪気な声が返って来る。 それからしばらくして、奥から幼い少女が駆け寄って来た。 ロールされた眩しい金髪に、綺麗に整った顔立ち。そして、エプロンの下でふわふわと揺れる、嫌みのない品の良さを感じさせるドレス。 西洋人形
2019年7月22日 23:02
2 早朝──冷たく引き締まった空気に満ちた、寂れた神社の境内。 そこで、一人の男が鍛練に勤しんでいた。「フンッ……!」 その男──青木衛は、短い呼気と共に、冲拳を放ち続けていた。 ただ闇雲に突き出すのではない。歩型の安定、丹田への意識、身体の連動、重心の配分、呼吸のタイミング、拳の軌道、勁力の伝達──様々な要素が上手く噛み合っているかを思考し、突くのである。 この数時間の間に放った拳打
2019年7月21日 15:21
1 若い男女が、濃厚に唇を重ね合っていた。 時刻は午前四時を回っている。その上、ここは人目につかない路地裏の奥。見咎める者など、誰もいなかった。「……っはぁ……ンっ……ふぅ……」 派手なドレスに身を包んだ女が、一度顔を離し、吐息を漏らす。 刃物のような美しさを持つ美女であった。 女の内面をそのまま形にしたような、美しい顔立ちであった。「っ……へへ……」
2018年4月30日 20:16
8 静まり返った部屋の外から、雨音が流れ込んでいる。 雨の勢いは一向に衰えることはなく、地面や建物を打つ激しい音が聞こえていた。「…………」 ソファーに座りながら、マリーは虚ろな表情を浮かべていた。 相変わらず、その瞳は何も写してはいなかった。「…………」 その様子を、衛は背後から見つめていた。 気持ちの整理がつくまで、言葉を掛けず、そっと見守っていた。
2018年4月29日 20:54
7 「ほう、東京から……。それはそれは、遠い所から遙々、お疲れ様で御座いました」 座敷に正座する、 皺と白髪を蓄えた男性。 その人物は挨拶をすると、恭しくお辞儀をした。 この家の家主にして、北村さつきのかつての担任教師、君島和久であった。「いえ……こちらこそ、突然押し掛けてしまいまして、申し訳ございません」 衛の方も、丁寧にお辞儀をする。 それに倣い、隣に座るマリ
2018年4月28日 22:12
6 「フンフンフーン、フンフフーン♪」 上機嫌で鼻歌を歌うマリーと、いつも通りの仏頂面をぶらさげた衛。 二人は今、白浜第三小を後にし、君島の自宅へと向かっていた。 彼らが小学校を出発する際に、林田は車で送ろうかと申し出てくれた。 だが衛は、これ以上お世話になってしまっては申し訳ないと、丁重に断ったのである。 林田が書いてくれた地図によると、君島の家は、小学校から歩
2018年4月27日 22:19
5 白浜第三小学校の校長室。 衛とマリーは現在、校長室内のソファーに並んで座っていた。 机を挟んだ向かいのソファーには、白髪交じりで、厳めしい顔付きをした男性が鎮座している。 当然、林田校長であった。 厳格──林田と対面して、衛が最初に抱いた印象は、その二文字であった。「青木衛と申します。ご多忙中、突然お邪魔して申し訳ありません」 衛が挨拶をし、林田に頭を下げ
2018年4月26日 21:50
4 翌朝。 普段ならば、衛は朝食の前に軽いトレーニングを行うのだが、今日は休むことにした。 起床後、二人はまず顔を洗い、昨晩の残りのカレーを温め直し、簡単な朝食をとった。 それが終わると、食器を素早く洗い、書斎に置いてあるパソコンを起動させた。「まずは、さっちゃんにつながる情報を探してみよう。さっちゃんのフルネームは分かるか?」 椅子に座った衛が、傍らのマリーに尋ねる
2018年4月25日 22:15
3 その少女──マリーは、静まり返ったリビングのソファーの上で目を覚ました。「ん……うう……」 自分は何故こんな所で寝ているのか。 そもそも、ここはどこなのか。 少女の記憶は若干混乱していた。「気が付いたか」 唐突に声が掛けられる。 少女は、声のする方向に顔を向けた。 その可愛らしい顔が、恐怖で歪んだ。「え──ぎゃあ!?」「人のツラ見るなり『ぎゃあ』はねえだろ
2018年3月7日 21:09
※注意※ この小説には、暴力シーンやグロテスクな表現、ホラー展開等が含まれております。これらが苦手な方はお気を付け下さい。1 杉本歩美は、塾から家へと続く通り道を、びくびくと歩いていた。 時刻は既に午後八時を回っており、辺りは薄暗い闇に包まれていた。 闇夜を照らすのは、切れ掛かっている街灯と、民家のカーテンの隙間から零れる微かな灯りのみ。 心許ないそれらの光が、今の歩美にとっては、