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この世には名前すら呼べない恋がある

この夏は映画館で映画を3本見て、3本とも私にとってはアタリで、全部見てよかったなぁと思っています。

一番最近観た「あなたの名前を呼べたなら」は、住込みのメイドとして働く主人公ラトゥナと、彼女のご主人様である御曹司の男性との、身分違いのラブストーリーです。

”身分違いのラブストーリー”とさらりと書いてしまうと、よくある設定な感じがしてしまいますが、今はカースト制度は廃止されているとはいえ、身分制度や貧富、教育格差が色濃く残るインドでは、メイドとご主人様の恋は絶対に絶対に起こりえないタブーなのだそう。

監督は海外生活の長いインド人の女性なのですが、子どもの頃家に彼女のお世話をしてくれるナニーがいて、とても仲が良かったのに、時として人間以下の扱いを受ける様子に子どもながら戸惑っていた、とインタビュー記事に書いてありました。

ラトゥナは、身分の低いメイドなだけでなく、村出身の未亡人(19歳の時に強制的に結婚させられて、4ヶ月後に夫が亡くなったそう)。インドでは地域によっては、未亡人は一生、アクセサリーを付けることもお化粧をすることも、もちろん他の男性と再婚することも許されないらしく、
映画の中でも、ラトゥナは妹の結婚式のために里帰りをするものの、未亡人だから結婚式自体には参加できない、というシーンが描かれていました。

サリーってかわいい!

大都市のムンバイでメイドとして働きながらも、ファッションデザイナーへの道を夢見ている彼女のファッションは、色や柄合わせがとても斬新で、着方も、サリーと同素材の布でウエストマークしてみたり、サリーを器用に折りたたんでプリーツを作ってみたり。
本当に服が好きなんだなということが伝わってくると共に、サリーってすごく素敵な服だなぁ、と新鮮な発見がありました。

それからラトゥナがメイドとして働く御曹司のマンションのインテリアのセンスが抜群で、見ていて楽しかったです。(インドフランス合作映画のため、フランスのセンスが入っているからかもしれません)
モダンインディアというのかな?
ムンバイのアッパー層は、スカッシュで汗を流したり、ドレスを着たりと、パリやニューヨークや東京の同じ層の人たちと変わらない(それ以上?)の暮らしをしてるんだなぁと思いました。

10年くらい前に、当時ムンバイに駐在していた大学の先輩の家に遊びに行ったことがあり、先輩が連れて行ってくれた、駐在の外国人やインドのお金持ち向けのインテリアショップがとても洗練されていて素敵だった記憶があります。(当時そこで買った、象の絵が書いてあるミルク入れは今でも大切に使っています)

マリーエレーヌドゥタイヤックもインドの貴石や半貴石に魅了されてジュエリーを作っているし、ドリスヴァンノッテンもインドに工場を持つほどインド刺繍をデザインに取り入れているし、
インドの独特の美意識や技術って本当に素敵で、私は好きだなー、と改めて思いました。

素敵な料理と、残るモヤモヤ

ラトゥナの作るインド料理やちょっとした軽食、ドリンクもどれもすごく美味しそうでした。(映画を見た翌日、スパイスをたくさん買い込んでフィッシュカレーとチャイを作ってしまったほど!)
ただ、ご主人様たちには素敵なお皿やカトラリーやトレーでサーブするのに対して、ラトゥナたち使用人は、キッチンの地べたに座って、ステンレスのワンプレートミールスを手で食べるというコントラストは、なんだか胸が痛かったです。

そういう身分制度を仕方のないものと受け入れつつも、しっかりとした自分の意思や夢を持つラトゥナの、自分の魂だけは売り渡すものかという強さがかっこよく映りました。

私たちは、どのようにして人を愛する許可を自分に与えるのか

これは、この作品を通して問いたかったことのひとつと、監督のインタビューに書いてありました。
身分とか今自分が置かれている状況を考えると、自分の中にある誰かを愛する気持ちを押し殺してなかったものにしてしまうこともある。けれど、いわゆる分かりやすい恋人になったり夫婦になったりはできなくても、心の中で誰かを想う気持ち、それだけは個人の自由なんじゃないかな、と思います。
愛の表し方は人それぞれだということをこの作品を通して気づかされました。

インドは108位、そして日本は110位という現実 

帰りの電車の中で購入したパンフレットを読んでいたら、

世界経済フォーラムが発表した「ジェンダーギャップ指数2018」によると、インドは108位。では日本は? 階級社会はなく、恋愛も職業も自由に選択できるはずの日本が110位と、世界基準ではインドより下位なのが現実だ。本作を見れば日本社会も性差と家に無意識のうちに縛られていることに気付くだろう。

というフレーズが目に入りました。
これだけの身分格差、地域格差があるインドに対して、恋愛も仕事の選択も自由にできるはずの日本は110位。
me too、SPA!の記事、医学部受験の合格者操作問題、ヒールの靴強要問題など、ここ数年で、今まで当たり前とされたしまっていたことが次々と問題として表面に噴出し始めています。けれどこれらの報道されている問題は、まだまだ氷山の一角なんだろうな、と思います。

単館系の映画館ではありますが、まだ全国で上映しているようです。とてもおすすめの作品です!

(以前「ひとり映画という金曜の過ごし方」という、私のおすすめ映画コラムをこちらに書かせていただいておりました。どれも好きな作品ばかりです!)


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