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ベッドサイドに置いておきたい一冊

1.

私はSNSではダントツでインスタグラムを使う頻度が高く、インスタを開くことは日課の一つ。日課なんて控えめに書いたけれど、気づくとつい見てるし、ストーリーズにはほぼ毎日のように投稿してるし、何かを調べるときも一番頼りにしてる。それくらいちょっと中毒的に、私の日常に入り込んでいる。

インスタにはなるべくポジティブなことだけを書くように心がけていて、モヤモヤしたことを書くときも、最後は前向きな感じで終わるように気をつけている。たぶん私だけじゃなくて、私がフォローしている、タイムラインに流れてくる人たちみんなそうじゃないかな? それは私がインスタを好きな理由のひとつでもある。

だけど、当たり前だけど、毎日前向きで楽しくてHappyで光輝いてるわけじゃない。絶望している日も、心が弱っている日も、どうして気分が晴れないのか自分でも分からなくてトンネルの中にいるような日も、実は気分がいい日と同じくらいたくさんある。

ときどき友達に会って話すと、みんないいこともよくないこともあるんだなって実感する。インスタを通して近況を知ったつもりになってるけど、実際会うと、本当にみんなそれぞれ色々ある。もちろんそれは私も含めて。物事には陰と陽があって、インスタはたぶん陽のツール。楽しくていつも輝いていて魅力的なんだけど、ときどきその陽の光が眩しすぎることもある。


たまに思い立って都内のホテルに泊まりに行く。ただ泊まって朝ごはんを食べることが目的。大人にはときどき日常からのエスケープが必要だと思う。


2.


韓国の人気ヒップホップグループ、EPIK HIGHのリーダーでありメインラッパーでありプロデューサーでもあるTABLOというアーティストが書いた『BLONOTE』という本を、発売より少し前に読ませていただく機会に恵まれた。この本を読むまでEPIK HIGHのことを私は全然知らなかったけれど、今から約20年前の2001年に結成されて2003年にデビューをしたグループで、韓国ヒップホップシーンの先駆者的な存在だそう。今をときめくBTSのRMやSUGAも、EPIK HIGHがきっかけでラップやヒップホップに夢中になったという。

この本はこんな文章から始まる。

深夜ラジオのパーソナリティーをしていたとき、「おやすみ」のあいさつ代わりに読み上げていたことばのかけらを集めたものです。

ふとした思いや悩みの始まりでも終わりでもない文章ですが
ふとした思いの始まりになり
ふとした悩みの終わりになることを願います。

さびしいと感じたとき
手を伸ばせばすぐ届くところに
置いておいてください。
『BLONOTE』(著:タブロ 訳:清水知佐子/世界文化社)


1ページに言葉がひとつ。余白はたっぷり。

例えば

旅に出る

道を探しに行くのではなく
まちがった道を進んでいる僕をしばし引き留めるために
『BLONOTE』(著:タブロ 訳:清水知佐子/世界文化社)

また別のページは

僕の体重から
心の重さを引いてしまいたい日だ
『BLONOTE』(著:タブロ 訳:清水知佐子/世界文化社)


など。

どのページにも、すごくネガティブというわけではないけれど、憂いのある、飾らない、本音の言葉が綴られている。

不自然にポジティブな言葉を並べたような本とは対極で、心の琴線に触れるってこういうことだなと感じた。例えば仕事で心身共に疲れ切っているときや生理前などは特に、「自分らしく生きる10の方法」とか「ポジティブ思考のためのモーニングルーティン」みたいな類のコンテンツを見るのがしんどくなってしまうことがある。もちろん自分だって人のことを言えなくて、ホテルステイの写真をインスタのストーリーズに上げまくっている日もあったりする。#staycationみたいな能天気なタグ付きで。単純にワクワクした投稿を上げているだけではあるんだけれど、誰かをちょっと嫌な気にさせているかもしれない、と頭をよぎることがある。

『BLONOTE』に収められている言葉たちは、決してキラキラした前向きな言葉ではないけれど、かといって世の中を斜に構えてジャッジしたり、誰かを羨んだりする言葉でもない。不思議と「私だけじゃないんだ」と思わせてくれる安心感がある。押し付けがましくなく、スッと心の柔らかい場所に届く。
きっとそれは上部だけの言葉じゃなくて、ちゃんと悔しいことも情けないこともしっかりと経験して、立ち上がってここまで生きてきた人の本物の言葉だからなんじゃないかな。

この本を読んでもうひとつ感じたことは、モヤモヤした、切ない、ポジティブじゃない、憂鬱な感情は、決して悪いものではないということ。気分に波があることは人間として普通で、そういう感情の存在を見て見ぬふりするのではなく、ちゃんと味わっている人のほうがむしろ健康的なのでは?と思った。イマイチな状態の時があるからこそ、自分の本当の気持ちに気づくことができたり、人生を軌道修正できるんだと思う。

SNSで昔よりも他人の生活が見えやすくなった今の時代は、どうしても無意識のうちに人と比べてしまったり、羨んだりしてしまう。でも、どんな人も常にうまくいってる訳じゃない。表に出さないだけで、みんな色々抱えてる。それに酸いも甘いもあるから、陰も陽もあるからこそ、人生は楽しい。

そんなことをこの本は思い出させてくれた。

3.

インスタの#blonote_artというハッシュタグをのぞくと、本のページの余白にイラストを書いたり言葉を書き添えたりと、読者が自分なりにカスタマイズした投稿がいくつも上がっているので、私も気に入ったページに自分のイラストや文字を添えてみた。

失ってはじめて気づくこともあるよね。


いいことばかり覚えてるのは、人間の本能なのかも。

(本のページを写真に撮って、その上からイラストを描く作業はとても楽しかったので、よかったらぜひ試してみてください!もちろん本に直接描いてもいいと思います)
しばらく#blonote_artのタグをのぞくのが楽しい日課になりそう。


4.

あれもこれもメモしておきたくて、私の『BLONOTE』は読み終わる頃には付箋だらけになっていた。眠れない夜にいつでもそっと開けるように、ベッドサイドに置いておきたい一冊。

最後にお気に入りの言葉のひとつを引用して終わりにしたいと思う。

雨降る空が君に教えてあげたいのは
君だけがそうじゃないってこと
『BLONOTE』(著:タブロ 訳:清水知佐子/世界文化社)





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