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【Medical Emergence Talk】#2〜そもそも、健康ってなに?(前編)〜

川尻:2回目の今日は、非常に本質的なテーマ!「健康とは?」について、朱田先生と考えてみたいと思いますがいかがでしょう?

朱田:そうですね。大きいテーマだから、だんだん小さくしていく感じでいきましょうか。

川尻:そうしましょう。昨日、Google検索で「健康とは?」を調べてみたんですよ。そしたらWHOが「健康」を定義していて、こんな風に書いてありました。

健康とは、肉体的、精神的及び社会的に完全に良好な状態であり、単に疾病又は病弱の存在しないことではない。

引用:WHO憲章より

朱田:なるほど。これは、BPSですね。

川尻:そう!まさにBPSなんですよ!

BPS(生物心理社会モデル)とは、
B:Biomedical 体の事 
P:Psychological 心の事 
S:Social 社会的な事
 の頭文字で、1977に精神科医であるジョージ・エンゲルさんが提唱した考え方で、人間の疾患や病を「病因⇒疾患」という直線的な因果関係 ではなく、「体、心、社会という3つの側面から包括的に捉えよう」という提言。

         BPS(生物心理社会モデル)        
                            
引用:NOI Explain Pain 講義資料

川尻:でね、WHOの健康の定義ができたのが、結構昔なんですよね。なんと!1947年!

朱田:76年前!これはもうWHOの責任ですね。全く浸透していない!

川尻:あははは。ほんと。こんな昔からあったんですよ。
    健康=BPSっていうのは・・・

痛みの感じ方も体の回復も捉え方次第!?


朱田
:でも、どうしても、健康=体に引っ張られますよね?

川尻:なんでですかね?

朱田:やっぱり可視化できるからですか?あとは、他人との比較がしやすいっていうところもあるのかもしれない。共通の会話が成り立つというか。「γーGDPが・・・」「体脂肪が・・」みたいな。

川尻:「あ〜、お前低いな。」「お前高いな〜。」みたいな。

朱田:そうそう(笑)「隣の奥様は、膝の軟骨がこうだった」とか、「脂肪肝がどれぐらい」とかって、共通のカットオフ値で喋れるから。

川尻:すごい面白いなと思うのは、身体的な状況をご自身がどう捉えるかによって、影響って違うじゃないですか。

例えば、「怪我をしたら、腰に痛みが出た」という状況があったとして「最悪や。もうこれは駄目や」って思うか、「まあ、ちょっと休んでリハビリして運動したら大丈夫だわ」となるのか?

その方の捉え方次第で、その後の回復が全然変わったりとかする。人は、身体的、心理的、社会的なものをそれぞれ別々のものとして分けて考えてしまうことが多いんだけれど、実はそれぞれ三つの要素は複雑に絡み合っていて相互作用がある。

朱田:本当に。

川尻:僕が治療をするときは、必ず今のような「痛みとは?」という話をするんですが、朱田先生はどうですか?どの位の割合で受け入れてもらえます?

朱田:どうですかね・・・「へえ〜。そういうものなんだな〜」ってなんとなく理解してもらえる人が3〜4割というところじゃないですかね。分からなくはないけれど、「やっぱり痛みを感じる体の部位に、原因が見つかるはずだ」と思い込んでいる人の方が若干多いかなっていう印象ですかね。

川尻:あと、「経験的には(川尻が)言っている事はよくわかる。けど、僕の場合は違うんですけどね」っていう、自分のコンディションは例外的と捉える人もいるじゃないすか。ある種、受け入れられない人達って、Google先生に聞いたのか、どこかの医師に言われたのか?もう、すでに彼らの中に答えがあって、その答えに合うものを探している状況。結果として、そのスタンス自体が痛みを強くしてしまっているみたいな人も、結構いる気もするんですけど、どうですか?

朱田: あると思います。自分の中で信念が出来上がってしまった人に対して、それを覆すのは難しいですよね。

川尻:ほんと。ほんと。

脳科学的にみるとわかる、
人が新しい知識を受け入れられないワケ


朱田
:今の話を、脳科学的に見てみるとわかりやすいんですが・・・人間の脳は大きく分けて、意識や記憶、状況判断などを司る「新皮質」と、本能や喜怒哀楽など 情動にかかわる「旧皮質」、そして呼吸や 心拍のコントロールなど、生命の維持に欠かせない役割を果たしている「古皮質」の三つの層に分ける事ができます。

信念は「旧皮質」で形成されて、新たな知識は「新皮質」で処理されるんですが、脳の優先順位は、新皮質よりも旧皮質という位置付けになっている。だから、いくら新しい知識が入ってきても、信念を崩せないというワケなんです。

川尻:じゃあ、信念を持ってしまっている患者さんは変えられないんですかね?

朱田:うーん。僕の作戦は、医療機関の強みとして、とりあえず全部調べあげます。社会保障費とかの問題もあるので全員にはやらないですけど、希望する方にはやります。

例えば、腰と膝が悪いと信じきっている人には、MRIの結果を見せて、構造的な異常がないことを確認してもらいます。その上で、リハビリで体の変化を体感してもらいます。この二つが戦略ですね。

川尻:それ、すごい大事!僕もリハビリで変化を感じてもらうっていうのは、僕絶対条件だと思うんすよね。そこで変化が感じられないと信じてもらえない。だから、ちゃんと変化を実感してもらうのは、非常に重要だと思っています。

身体的、精神的、社会的に完全に良好な状態とは?

朱田:さっきのWHOの健康の定義の「身体的、精神的、社会的に完全に良好な状態であり・・」の「完全に良好な」が難しいですね。良好ってどういう状態だろう?

川尻:そうそう。70代にとっての良好と、20代にとっての良好って全然違うし、この「良好」っていうのは、何をどう指すのかすごく難しいなって思います。

朱田:例えば、「経済的に良好」はわかりやすいじゃないですか。「精神的な良好」もなんとなく想像しやすい。でも、「身体的な良好」って定義が難しい。

川尻:そうなんですよ。

朱田:身体の能力で考えれば、健康のピークは10代後半〜20代前半ぐらいですか。この年齢をすぎたら、我々の身体は下り坂に入っていく。その変化のスピードを、緩やかな速度に変えることはできるとは思うんですけど。

川尻:それって人間の当たり前の変化じゃないですか。でも、下っていくことを不健康になると捉えるべきなのかな?

朱田: 例えば、パーフェクトな体をしている10代後半から20代前半のアスリートがいるとするじゃないですか。40代〜 50代の僕らから見たら、すごい理想的な肉体を持っているんだけど、本人は「足りない」って思ってるケースもありますよね?

川尻:よくある!!

朱田:この場合は「身体的に良好じゃない」ってことですかね?
「精神的に良好じゃない」ってことなのかな。

川尻:そこが難しい。身体的良好と、精神的良好を分けることが凄く。

朱田WHOの健康の定義を違った表現で考えてみると、結局良好かどうかというのは、「自分の思いと現実のずれ」、みたいなところになるんじゃないかと思うんですけど・・・

川尻:同感です。現実と予測の差って、結局捉え方に左右されるじゃないですか。例えば、「こうあるはずだ」と思っていた予測よりも現実が悪いと「俺はだめだ」みたいに捉えがちだし、初めから予測が低ければ、「俺、結構いけてるやん」となる。パーフェクトになろうとしないというのも大事な気がしますけどね。

朱田人は、毎日体調も違うし、睡眠時間も、食べたものも違う。だから、揺らぐものじゃないですか。だけど、人はそうは思わないわけですよ。ロボットじゃないので、毎日同じ結果、同じ動きにはならないのが普通のことなんですけどね。「完璧であるべきだ」という信念があまりにも強すぎると、対応が難しいんだろうなって気がします。

川尻:それって、教育の過程のなかで、「完璧であることが良いこと」みたいなイメージが植え付けられているからのような気がするんですよね。その結果、常に「体のコンディションは一定であるべき」みたいなイメージを強く持っている人が多い。

今、健康に関する常識が、ガラリと変わる過渡期だと思うんですよね。
我々が、今まで人類として見落としてきたもの、勘違いしてきたものが、ここ10年〜20年で大きく変わってきているのを感じています。

朱田:そうですね。どんな時にそう感じたんですか?

川尻:特に僕がそれを感じたのは、患者さんの痛みの治療を通して本質を理解をし始めたときです。まあ〜〜、今まで学校で習ってきたことと違うワケですよ。世間一般で思われてる痛みの解釈と、まあ〜〜違う。こういう齟齬が生じるのは、何か大きな変化が起きてるときなんですよね。今、過渡期だなと理解しています。


後編に続く。


*この連載は、オンラインサロンMEG※(Medical Emergence Group)で配信されていた対談の一部を編集してお届けします。

朱田 尚徳 (所沢あかだ整形外科 院長)
富山医科薬科大学医学部医学科卒業。国内外の整形外科病院勤務ほか、Jリーグのチームドクターなどを歴任。2020年、埼玉県所沢市に「所沢あかだ整形外科」開院。理学療法士や鍼灸師とともに、チーム医療の推進を行っている。日本整形外科学会認定整形外科専門医、日本体育協会公認スポーツドクター、義肢装具等適合判定医。

川尻 隆 (SASS Centrum, Inc. 代表 アスレチックトレーナー 組織改革デザイナー) 
サンディエゴ州立大学を卒業。2007年よりアメリカカリフォルニア州サンディエゴにてIntegrated Holistic Medicine Clinic/パーソナルトレーニングジム“Body Craft”を経営。2017年に株式会社SASS Centrum,を設立し代表取締役に就任。新しい医学・医療の形を「動作学」を基礎に研究を続けている。

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