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俳句物語0071~0080 もももももややややししし七日粥

 昨年詠んだ句のベスト10句など選んでいたが、それをどこかに出すということはしなかった。写生句などめったにないし、句そのものだけで評価出来るというものも少ない。ここに置くだけにしておく。


2021年自選十句


海底はすべてハマグリ 元・雀

露寒し素肌でないから寄り添える

小雪降る積もらぬ白に文字記す

小春日の子の指先の月の朝

紅葉散る無限掃除夫頭上また

枯園に廃線伸ばせば駅舎来る

寒暮読む全て未完の物語

寒潮だネギが落ちる落ちる落ちる

冬帽子探せど探せどプラレール

寒凪にまだ浮かんでる昨日の子


次点

秋の果て昨日までいた人がいない

冬ざれた街蹴り崩すデビルマン

芒野(すすきの)に隠したままの二十五歳

 年末年始と言われても、我が家はあまり季節感がない。喪中ということもあるし、ここ十年ほどは正月三が日は確実に仕事があったので、家でのんびり過ごしたことなどなかった。今更一般的な家に戻るつもりもない。


0071

英雄は自分で創れ年守る


 次の年を眠らず迎える為に炉端でよもやま話などをするうちに、ヒーローや救いの神の話になった。来年は来てくれるのか、今年は隠れていたのか、これまでそもそもいたのか。もういいから自分で創ろう、という結論に至る。自分がなる、とは誰も言わず。


0072

夢では死まだ生きていた今朝の春


 夢の中で自分は故人として扱われていた。思い出話などをされる中に、いるのかいないのか分からないような自分が飲み会の席にいた。出席していた旧友には本物の故人もいた。起きれば新年の朝が来ていた。まだ生きていた。まだ生きていたいのか。


0073

今年から縮み始めた背と陰嚢


 人生の折り返し点を過ぎた。背が縮んだ。陰嚢も制御しきれないくらいに膨れるようなこともなくなった。かつて見下ろしていた物が目前に迫る。色気のあるなしは本人ではなく、観る人間側の問題であった。見上げるものの何と多いことか。大きいことか。


0074

ブランコは揺れていたんだ初昔


 鎖を修理中だとかで、ブランコ四台全て繋がれて使用不可になっていた。ブランコ目当てに集う人が多かったようで、正月休みだがいつもより公園に人手が少なかった。年末遊びに来た時には全てのブランコが揺れ続けていた。人がいる時も。いない時も。


0075

少しずつ臓腑こぼれる四日かな


 ごろ寝している内に生命活動を終えてしまった。四日目にして溶けた内蔵がこぼれ落ち始めた。季節感のない部屋に広がる体液が、外にまで広がるまでどれくらいかかるだろうか。床に散らかしたままの靴下が染まる。元は白、灰色にくすんで、今は黒。


0076

小寒に鍵を探せば埃舞う


 家の鍵が見当たらぬ。昨日帰ってきた時は開けたのだから使った。その後すぐに妻が帰ってきたので、鍵穴に挿したままでもない。床を這うと、埃がまだまだあちこちに残っている。探すうちに体が火照り寒さを忘れる。鍵は捨てたか。鍵に捨てられたか。


077

執行の猶予期間か松の内


 松の飾りなどがまだあるうちは正月だという。昨年からずっと私は正月のような暮らし向きをしている。どこにも働きに出ず、家族以外に会う人もおらず。何もしていないというのは何もしていないという罪にあたる。刑の執行猶予期間内で私は罪を書き続ける。


0078

もももももややややししし七日粥


 粥にはもやしを入れ、次にもやしを入れ、更にもこれでもかともやしを入れます。次は気分を変えてハイテンションでもやしを入れ、次は上から目線でもやしを入れます。最後の仕上げにもやしを入れた後、アンコールにももやしを投入すれば完成です。


0079

新年会生きてるものはいないのか

 新年会に故人として出る。見渡せばほとんどがそうである。前田司郎の戯曲の題名「生きてるものはいないのか」を思い出す。皆いい笑顔で杯を交わしているが、何も音が聞こえない。誰かがしきりに話しかけてくる。出ない声で答えれば笑ってくれた。


0080

凍て空を翔ぶ鳥半数鼓動なし


 凍りつくような空を翔び続ける鳥の半数は既に絶命している。凍りついて、あるいは寿命で。気流から堕ちることも出来ず、空気の層に乗って翔び続けている。耳を澄ましてみれば、鼓動は群れの半数からしか聞こえてこない。空に限ったことではない。

入院費用にあてさせていただきます。