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千人伝

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様々な人の評伝「千人伝」シリーズのまとめマガジン
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2023年7月の記事一覧

千人伝(百八十一人目~百八十五人目)

百八十一人目 半熟 はんじゅく、の身体は半分がまだ出来上がっていない状態で生まれた。それは右半分だったり下半分だったりと、定型を持たなかった。熟していない部分は輪郭が曖昧になり、どろどろに溶けた鍋の中身のようになり、触れると高い熱を持っていた。 バイトの面接には落ちた。就職にも失敗した。顔が不定形になると、同じ顔には戻れなかった。誰かと手を繋いでいる最中にその手がぐずぐずに崩れだすと、相手は悲鳴を上げて逃げていった。歩いている最中に下半身が上半身を支えられなくなると長くそ

千人伝(百七十六人目~百八十人目)

百七十六人目 棒 棒は人に似ている棒であったが、あまりに似ている似ていると言われているので、人になってしまった棒である。人となってからも手足は木のままであったのでよく折れた。折れるところがおかしいと言われ、折られもした。そのたび見知らぬ木々から接ぎ木するので、棒の手足はそれぞれ別の種の木であった。 棒の住む地域が戦場となり、多くの死骸が棒の周辺に転がった。二度と動かなくなった見知った人々に棒は接ぎ木をしていった。手足が取れた者には手足を。首をなくした者には首を。魂を失った

千人伝(百七十一人目~百七十五人目)

百七十一人目 囚児 しゅうじ、は囚人から生まれた子であった。脱獄に成功した二人の囚人が出会い、生まれた。両親が再び獄に繋がれた際に、孤児となることを憐れんだ獄卒が彼を引き取り、監獄の中で育てられた。囚児は手を鎖で繋がれた囚人たちに頭を撫でられた。彼を囲む大人たちは日々変わっていった。脱獄したり、労役中の事故で亡くなったり、逃げようとして斬られたり、凍死・病死・縊死したり。  もはや囚児の本当の親は誰か分からなくなるくらいに、獄の中は混沌としていた。  囚児は獄の中で一生を