マガジンのカバー画像

千人伝

54
様々な人の評伝「千人伝」シリーズのまとめマガジン
運営しているクリエイター

2022年10月の記事一覧

千人伝(百五十六人目~百六十人目)

百五十六人目 偽書 ぎしょ、は偽物を書いた。故人となった有名作家の未発表作品を記し、未完の大作の続きを書き、聖書の記述を大幅に増やした。 彼は生涯で千作の偽作に関わり、そのどれもが偽物と気付かれることなく世間に流通した。彼は晩年、どこにも発表しない文章を書き続けた。偽作を書き続けたために自分の文章を書けなくなった人の話を、ありとあらゆる文人の文体で記した。 鏡にはもはや自分の顔が映らなくなっていた。 百五十七人目 ドウロク ドウロクにあてられた漢字は今では不明とな

千人伝(百五十一人目〜百五十五人目)

百五十一人目 爆発 爆発は気を抜くと爆発した。震え過ぎると爆発した。性欲が高まると爆発した。要は爆発せずにはいられない体質であった。 爆発の身体には爆発器官があり、全身くまなく散らばっていた。時には四肢全て爆散することもあった。人と関わらなくなっても、寂しさが募るとまた爆発した。 爆発は自己治癒能力が高かった。高すぎた。爆発四散しても回復出来た。そのような人は他にいなかったので誰とも仲良くなれなかった。そうして寂しくなってまた爆発した。 年老いた爆発は爆発する元気も

千人伝(百四十六人目〜百五十人目)

百四十六人目 千羽 せんば、と読む。千羽鶴を追っていた。千羽鶴を追い続けていた。千羽鶴が飛べば千羽もの折り紙に空は彩られて、夕焼けも朝焼けも埋め尽くした。そのような千羽鶴を見てしまえば、追いかけずにはいられなくなったというわけだ。千羽はあらゆる場所に縛り付けられた千羽鶴を解放した。病院や記念碑や体育館にある千羽鶴を解放するたびに、悲鳴より歓声の方が大きくあがった。 やがて千羽は自らも鶴を折るようになった。折り紙では飽き足らず、紙はどんどん大きくなっていった。家ほどの紙や、