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千人伝

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様々な人の評伝「千人伝」シリーズのまとめマガジン
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2022年9月の記事一覧

千人伝(百四十一人目~百四十五人目)

百四十一人目 落音 らくおん、と読む。居間でくつろいでいる時に、洗面所の方で何かが落ちる音がした、ということがある。風呂上がりの同居人にこう聞いてみる「何か落としてた音してたけど」。意識しない駄洒落が発生した瞬間に生まれたのが落音である。 落音は偶然の出生によりなかなか仲間を得られなかった。似たような境遇の誰かと出会ってそのまま暮らし続けたかった。さまよい続けているうちに、落音は様々な音色に出会った。ため息のメロディや、いびきの歌声や、山鳴りのオーケストラなどに。落音は彼

千人伝(百三十六人目~百四十人目)

百三十六人目 ただただ ただただ書きたかった、とただただは言った。ただただはただ無性に何かをやりたくてたまらない性格の持ち主であった。それでいながら、何をやっても、それは自分の本当にやりたかったことではない、という気持ちでいつもいっぱいになっていた。いっぱいいっぱいにもなっていた。 ただただ描きたい、といって絵を殴り描いていた頃も。ただただ歌いたい、と言って叫び倒していた頃も。ただただ寝ていたい、といっていびきをかいていた頃も。やっているうちに次にやりたいことが浮かんでき

千人伝(百三十一人目~百三十五人目)

百三十一人目 高橋 高橋は全ての高橋の祖先である。 吊り橋効果がきっかけで付き合い始めた両親は、そのドキドキを永遠のものとしたいがために、吊り橋の上で暮らし始めた。山の上で一番高い吊り橋であったため、橋で生まれた子に高橋と名付けた。 両親がどうであろうと、高橋は橋で一生を過ごしたくはなかった。何より橋の上から釣り糸を垂らして釣る魚と、通りがかりの鳥を食料とするだけでは、食物繊維が不足するのだ。高橋は両親と別れて橋から降りた。七歳の時の決断であった。 その後の高橋は様々な