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千人伝

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様々な人の評伝「千人伝」シリーズのまとめマガジン
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2022年6月の記事一覧

千人伝(八十六人目~九十人目)

八十六人目 三振 三振は何事も三度失敗を重ねた。 一度振られた相手に二度振られ、三度目でようやく諦めた。 就職活動も三度落ちた後はすっぱり諦めて職に就かなかった。 借金の申込みも三人回ってことごとく駄目なら金を諦めた。 なので長く生きることは出来なかった。 しかし二度生き返った後、三度目に本当に亡くなった。 一度生き返った後は一週間、二度目の際は三日生きた。 その間に三振のしたことといえば、違う相手に三度ずつ振られたことだけだった。 八十七人目 蔵朱 くらしゅ、と読む。

千人伝(八十一人目~八十五人目)

八十一人目 鏡原 野原には草が生えている。鏡原には鏡が生えている。 鏡原に生える大小極大極小、ありとあらゆるデザイン、割れた鏡にこれから割れようとする鏡、無限に近い鏡の中で生まれたのが、地名と同じ名を持った鏡原である。 人である鏡原は鏡原に迷い込んで出られなくなった男女から生まれた。鏡原に生える鏡の中には、現物はなくとも食料を映し出す鏡があり、その前に立てば栄養を取れるし、稀に中に入ることの出来る鏡もあった。 ある日合わせ鏡の奥の奥まで入り込んでしまった鏡原の両親は帰ってく

千人伝(七十六人目~八十人目)

七十六人目 歯車 歯車は視界の端でキシキシと音を立てている。 他の人には見えないが歯車も人である。 歳とともにガタが来てあちこち動きが悪くなるし、一部壊れて二度と戻らない箇所もある。 人であるから油を塗ったところで意味はない。 だから泥ばかり塗りたくり、より一層視界の端でガタガタと言い始める。 七十七人目 ピントウ ピントウは早朝や真夜中に人の家のインターフォンを鳴らして回る迷惑な人である。住民は寝ていたり、強く警戒をしたりで、既に逃げ出してしまったピントウの背中を見る