第1話 初恋
私の初恋は小学1年生。
「この足し算がわかった人から先生の机にノート持ってきて下さい」
私は鉛筆が進まぬノートをひたすら眉を狭めながらにらめっこしていた。
クラスの大半が回答がわかり次の問題を問いていた。見かねた先生が言った。
「イトウくん、杉山さんにさっきの問題の解き方を教えてくれるかな」
イトウくんは、頷き私の机に自分のノートを持って教えてくれた。
「足し算がわからないときは手を使って数えるんだよ」
嫌いな算数が少しだけ好きになったように、イトウくんのことも好きになった。
イトウくんはメガネをかけていた。ハリーポッターに出てくるダニエル・ラドクリフに少し似ている。
算数も得意だし、運動神経もいい。勉強が得意でない私とは真逆の性格だ。
イトウくんはいつも私に質問してくる。
「杉山の家はいつもお父さんが買い物しているの?」
「杉山のお母さんは中国人なの?」
私は中国人の母と日本人の父を持つ、ハーフだ。
両親は貿易の仕事を起業して、自営業だった。
日本語を話す父は経理財務担当。中国語を話す母は交渉外商担当。
そんなふうに役割分担があったため、家でも家計の計算は父がしていた。
車の免許を持っていない母に変わり、車で私や兄の習い事のお迎えと、ついでに夕食の買い物によく行っていた。
当時はハーフ自体が珍しく、且つ、男性がスーパーに買い物しているというのも珍しかった。
私は気にしていなかったが、よくそのスーパーでイトウくんのお母さんと遭遇していた。遭遇した次の日には必ず質問されていた。
「杉山の家はいつもお父さんが買い物しているの?」
他の家と自分の家は同じ地域に住んでいても世界が違っているということを幼いながらに感じ取っていた私は質問されるすべてが、違いを指摘されているような気がして、恥ずかしくてその場から逃げ出したい気持ちにかられてた。
「お父さんと買い物行くのが好きなんだ……」
そう言って、適当にその場をしのいでいた。