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育休が取れる組織づくり

はじめに

本記事は、子育てエンジニア Advent Calendar 2020 5日目のために書いた記事だ。前日の時点で空いていたので、2回目だが参加した。

前回は「子育て」に焦点を当てたが、今回は「仕事」に焦点を当ててみたい。

育休、とれてる?

まずは、こちらの厚労省による育休取得率の推移をみてほしい。

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厚労省「男性の育児休業の取得状況と取得促進のための取組について」より

8割以上が取得している女性に比べて、男性の取得率は1割にも満たない。しかし、私の観測範囲では子供が生まれる男性のほとんどは育休を取得している印象だ。環境によって取得率には大きな差がありそうだ。

全体の傾向としては、男性の育休取得率は向上している。そして男性の育休取得が当たり前になっている私の会社も、以前はそうではなかった。ということは、うちの会社で起こった変化から、これから社会で起こることを予測することができるかもしれない。

「育休取るんだ!」から「育休とらないの?」への変化

私の第1子が生まれたのは7年前。子供が生まれた前後で多少の休みはとったものの、「育休」というものは取得していなかった。というか、男性が取れるということを知らなかったのだ。

その後、お子さんが生まれた先輩が一か月ほど育休を取ると聞いたときは「育休って男性でも取れるんだ!」という驚きがあった。また、周囲も「〇〇さん育休とるらしいよー」と、物珍しさから話題になるほどであった。

2人目が生まれたのは5年前。この時は「育休を取れる」ということは知っていたが、結局とらなかった。育休制度を使わず、通常の有給を消費して2週間ほど子育てにあてた。なぜ育休を取らなかったかというと、「手続きがよくわからなかった」ということと、取得することで周囲からどう思われるかが不透明だったという点が大きい。

3人目が生まれたのは2年前。この時は、かなり「育休を取る」ことが当たり前化していた。妻と相談し、結局このときも取らずじまい。2人目とおなじく有給を多めに取ることで対応した。そしてこの時は、周囲から「育休とらないんですか?」と驚かれた。

そう、数年の間に、社内でのスタンダードは「男性は育休を取らない」から「男性も育休を取る」にシフトしていたのだ。

「取っていいよ」から「取ってください」へ

そして2020年。育休は「取ってもいいですよ」どころか「取ってください」へと変化している。この「積極的な取得の奨励」により、最近は管理職など休みを取りづらそうな立場の人たちでも育休を取得している。

すっかりこの「育休を取る」文化が当たり前になっているので気づかなかったが、管理職がちゃんと休める環境というのは、自分の会社ながら素晴らしいのではと感じている。しかし、なぜこのようなことが可能なのだろう。

プロジェクト発足、からの即育休

身近な育休取得事例から、そのメカニズムを紐解いてみる。

私の研究開発グループで、10月から新しいプロジェクトを立ち上げた。そしてそこのプロジェクトマネージャーが、11月まるまる育休を取得した。

そう、プロジェクト立ち上げ1か月でPM不在、という状況となったのだ。

つい先日、12/1に彼は職場へと帰還した。結果として彼が育休へ突入してから帰還するまでの間に、大きな問題は起きなかった。

実はもともと、このPMに蓄積されたナレッジに依るところが大きいプロジェクトだったので、最初に「育休に入ります」という話を聞いたときにまったく不安がなかったかというとウソになる。

しかし、自分も子供が3人いる身。父親が子育てにフルコミットすることの大切さは肌で感じている。なにより、「誰かがいなければ成り立たない」プロジェクトの存在なんて、マネジメントの敗北ではないか。ここは快く送り出すことにした。

「当たり前」をやる

彼が育休に入る前、つまりPJ発足から一か月ほどの間は、プロジェクトメンバー主体で手を動かす/矢面に立つことを意識的に行っていった。ドキュメント化しておくべきことは、ドキュメントにした。一通りのOps業務を素振りし、わからないところは事前に聞いておき、「その時」を迎えた。

いざ書き出してみると、ごくごく当たり前のことだ。しかし、この当たり前を継続することは当たり前ではない。今回、「一番の有識者が不在となる」ことを通して「当たり前」は執行され、組織としての強度は間違いなく向上した。

PM不在で育つメンバーたち

「その分野に一番詳しいメンバー」の存在というのは、実務的な面もさることながら精神的支柱としての役割が大きい。彼が育休に入るというときも、実務が回らないかもしれないということよりも「いなくて大丈夫なのだろうか」という漠然とした不安があった。

そして、この不安を払拭したのはメンバーたち自らの行動だった。手を動かし、成果を出す。成果を対外的に伝える。このシンプルで当たり前のことを実践し、周囲から認められることでメンバーたちは自信をつけた。そして、指示をまつのではなく自分たちで考え、新しいことにもチャレンジしていくようになった。(そこには「ふりかえり」の力が作用している面もあるが、それはまた別の話。)

いよいよ彼が帰ってきた12/1、待ってましたと質問責めにするのではなく、達成した成果について伝えるメンバーたちの顔つきは、彼が育休に入る前よりもたくましくなっていた。

育休は「休み」ではない

さあ、というわけで

・うちの会社では男性の育休取得が当たり前になったよ
・育休はキーパーソンであってもとるべきだよ
・キーパーソン不在はメンバーにとって育つチャンスだよ

という話をしてきた。まだ男性の育休が浸透していないという現場にとって、何かしらの参考になれば幸いだ。

そして。

これは非常に重要なことだが、育休は「休みではない」。子育てという初めての経験と24時間向き合う闘技場への招待状なのだ。
だから、育休明けの人に「休めた?」と聞いてしまうのは見当違いもはなはだしい。職場よりも数段過酷な環境で、子育てという苦しいけども楽しく愛おしいミッションにコミットしてきた同僚には「お疲れ様」の言葉こそが似あうだろう。

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