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楽しいバカンス 1day

 「今日、人を殺そうと思ってるの。」

 突然、聞かされる親友、ミーコからの衝撃的な言葉に、頭か真っ白になる。

 「ユキとは、昔から友達だし、これだけは言っておこうと思って。」

 ミーコはそういうと、どこかへ行こうとする。

 「ちょ、ちょっとまって!!。」

 「なに?。」

 どうしよう何か言わなければ。混乱して、本当に聞きたいことも聞けない。何とか絞り出して、言葉を出す。

 「どこ行くの?。」

 私は何を聞いてるんだ。なんで人を殺すか聞かなきゃいけないのに・・・。

 「旅行中でしょ?みんなで観光しなきゃ。」

 「え?。」

 ミーコは笑いながら、先に見える、リゾートホテルに入っていった。

 そうだ。私たちは、今は旅行中なんだった。


 まるでスポットライトのように、この島にいる人たちを照らす太陽。青が太平洋の奥底まで続くような空と海。私たちは、女4人で南の島に遊びに来ていた。

 日本から離れたこの地は、数時間にも及ぶ旅路で、正直私は疲れていた。

 ホテルにつくと、まず、ベットに飛び込む。私は後輩のキリちゃんと同室だというのに、子供らしいところを見せてしまった。

 「もう何してるんですか~ユキさん。」

 「飛行機の中で疲れたじゃん?。それに、ホテルについたら、まずベットにダイブだよ。」

 笑いながら、遊びに行く支度をしているキリちゃん。彼女は、話し上手、コミュニケーション能力も高く、どんな人にも気に入られていて、人気者だ。ただ金遣いが悪く、たまに、私にお金を借りに来たりしている。

 「そういえば、この前貸したお金ってどうなってる?。」

 「あ、それはもう少し待ってもらえると・・・。」

 「できれば、早くに返してね。」

 「すいません。」

 すこし暗くなる、キリちゃん。

 「ごめんね!こんな話して!!せっかくバカンスに来たんだし、楽しも!!。」

 「そうですね!楽しみましょ!。」

 支度をしている、キリちゃんを横目にゴロゴロしていると、携帯が鳴った。

 「ユキさん、電話ですよ。」

 相手は、ミーコだった。

 そして、ホテルの近くのカフェでその話を聞かされ、今に至る。

 今日、ミーコは、今から四人で、この南の島で遊ぼうとしている。しかも、その中にはミーコが人を殺そうとしている。

 みんなはこのことを、知っているのか?あの感じは私にしか言っていないのか・・・。

 というよりも、私は今からどういう気持ちで遊びに行けばいいのか。

 私は、ホテルのロビーで考えていると、先輩のリンコさんが肩をたたく。

 「どうしたの?浮かない顔して。」

 私は、思わず言いそうになった。「ミーコが、人を殺そうとしている。」と。やっぱり、こんなこと言っても、リンコさんが困惑するだけだ。と思いとどまった。

 「いや、何美味しいもの食べようかなって考えてて。」

 「あ、そう。そうだな、私は化け物みたいなの食べたいかな。」

 「ば、化け物みたいなものですか?。」

 「そう。こういう異国に来ると、ゲテモノ料理とか食べたくなるじゃん。」

 いや、少なくとも私はならない。  

 「そうですね・・。」

 「私はそれを通り越して、化け物みたいなの食べたいなって思って。」

 このリンコさんは、私たちの二年ほど先輩で、身長も高く、スタイルもいい。それに性格が男っぽくて、仕事もきびきびこなす、頼れる先輩なのだが、かなり変なところがある。

 噂では小学校のころ、実験や化学が好きで、爆弾やホルマリン漬けを自分で作ってたんだとか・・・。

 「私は普通にお肉がいいかな・・・。」

 「肉いいじゃん。化け物みたいな肉食べたいね。」

 そういうと、リンコさんはスマホで即座に、化け物みたいな肉を検索して、私に見せてくる。

 そこに残る二人、ミーコとキリちゃんも集まる。

 「あれ、二人で何してんの。」

 「もう、どこか行こうとしてるんですか?。」

 リンコさんは、すらっとした長い足を大きく広げ、手を振った。

 「おー、ふたりとも。今、何食べに行こうか考えてたところ。」

 ミーコが、普通の笑顔で近づいてくる。

 「そ、そう。」

 それから、楽しそうに話すミーコと二人。

 この子は、今からこの中の誰かを殺すつもりなんだ・・・。

 「ユキ!今から海行くからいこ!!。」

 突然の、ミーコの声に驚く。

 「どうしたの、ユキ。」

 「へ?あ、いや、てっきりご飯行くのかと思ってた。」

 「せっかくだし、まずは海に行こうって話になったの。」

 いまから海?。まさか、そこで誰か殺すわけじゃ・・・。 

 「人食いザメとかみれるかなぁ。」

 「もう、やめてくださいよ。リンコさん!。」

 「ひ、人食いザメ・・・!。」

 思わず驚いてしまう、

 「ごめん、サメ嫌い?。」

 「ほら、ユキさん、怖がっちゃってますよ。」

 リンコさんもキリちゃんは、当然、何も知らない。

 私が二人を守らなくちゃ。私がミーコを止めなくては。

 そんな、いまから海に行こうとしているミーコの手になぜか、バットがあった。

 「ミーコ!!。」

 バットを力強くつかむ。場の空気が、私の大きな声で凍り、みんなが固まる。

 その時、ミーコは笑顔を見せた。でもその笑顔は普通じゃなかった。




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