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東京喫茶日記ー金町

今日は何の日だったか、わからないけど3連休で今日まで仕事がないということは理解していた。
だからとても気分がいい。なかなか休日は外出が憚れる私だが、今日は以前から行きたかった近所(と言っても30分ほどかかる)喫茶店まで行こうと決めていた。

所用を済ませた後、家から金町駅前まで30分ほど歩く。
最近運動不足だったためだろうか、冬の空気が染み込んだ太腿に血が弾み、痒みを訴えている。

たどり着いた先には、駅のターミナルからも確認できるくらいの大きな文字でガラス窓に”味の芸術”と書かれている。



古いビルの狭い入り口に入ると何故だかシンナーのような匂いが漂っていた。

実は喫茶店に赴くのはとても久しぶりである。そのことも相まって、心臓を跳ねさせている。
もしかしたら私は踏み入れては行けない領域に入っているのではないか、と
冒険心にも恐怖心にもすれ違いながら2階への階段を登る。

引く、と分かりやすく書かれた扉を引く。
ドアの隙間から流れ込んだ空気でくゆり、とタバコの気流が動いた。


店内は喫茶店らしい赤いスウェードの低めの椅子が少し窮屈そうに並んでいる。

また、味わいのある重厚感とどこかミスマッチにも思える、テレビの雑音、窓辺のイルミネーションと観葉植物も。
ずっしりとした渋さと、実家のような温かさが融合した空間。

きつめにパーマを巻いたおしゃれな店員さんが空いている席を案内してくれた。

祝日の午前11時ごろ、ほぼ店内は満席で、私は一番端っこの2人席に座った。

今日は間違いなくツイている。特等席だ。

今日は一日予定がないが、三連休のうち二日は怠惰にしてしまって、やらなければならない作業がわりかし立て込んでいたので図々しくこちらに居座らせてもらおう。

席に座るなり、すぐにあついおしぼりとお水が運ばれてくる。
メニューを開くと、美味しそうな定食メニュー(特にオムライスが美味しそうだった)と喫茶店の定番ドリンクメニューが豊富に並んでいる。

店内には喫茶店のことを「エモい」と称するような、いわゆる私のような(そうはありたくないのだけど)ミーハー若者は一人もいなかった。ご家族や、ご友人や常連さんと思われる方々がタバコや新聞や世間話を片手に時間を過ごしていた。

また、半数くらいのお客さんが定食屋さんのような食事メニューを平らげていたのも印象的だった。

くっ、、何を隠そう、直近は貯金のために冷凍うどん or 鍋で食いつないでいるので、この喫茶店でもコーヒー一杯で粘ろうと思って朝からうどん1玉を平らげてしまった。
とりあえず、と思ってブレンドコーヒーを注文。5分たたないくらいで出てきた。


また、喫茶店というと無愛想だけど実は懐の深い店員さんがいるという固定概念があるのだけど、こちらはとても気の利く優しい店員さんが3人で立ち回り店内の状況をくまなく確認して、迅速にサービスを提供してくれる。
なるほど、素晴らしいお店である。

隣の席の椅子は、ところどころ赤い生地がめくれて継ぎ接ぎされていた。
それだけたくさんの人が座ったというしるし。そして同じものを何年も守っているというしるし。

思いの外作業が捗り、結局、コーヒーいっぱいで3時間近く居座ってしまった。
帰り道、マフラーとコートから誰のものかもわからないタバコの匂いがした。クサいけど、なんていうか、誰も責める気になれないような。


多分、もう一度来てしまう。近所だし。

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