【一発ネタ】ある短編のアイデアをめぐる会話

「あのー、ちょっと折り入って、相談があるんですけども」
「いいですよ。どんな相談ですか?」
「ウ~ン、これ、どう言えばいいのかな……短編を書きたいんですが、すごく変なアイデアで……それをどう書こうかなぁ、と……」
「えっ、いつも通りに書いたらいいじゃないですか。あなたいつもヘンなのばっかり書いてるでしょ」 
「大雑把な言い方しないでくださいよ。ヘンなのって……がんばって書いてるのに……」
「がんばって書いてても、事実ヘンなのばっかりじゃないですか。あと気持ち悪いのと」
「気味が悪い、くらいにしてくださいよ。これでも意外に苦労してるんですよ?」
「苦労してるってねぇ、あなた趣味で創作やってるんでしょ。苦労だなんて、バチが当たりますよ」
「けっこう、産みの苦しみがあるんだけどなぁ…………」
「この際、あなたの苦労話はもういいです。で? どんなアイデアなんですか?」


 …………………………



「さっぱりわからない。そんなアイデアを小説にして面白いんですか?」
「知りません。僕にはわかりません」
「すごい無責任な答えだなぁ」
「責任なんて負えませんよ正直。いわば実験的な短編なわけですし」
「そりゃそうでしょうが、せめて面白さくらいは保証した方がいいのでは?」
「たぶん……面白いです」
「違う違う……こうねぇ、『面白いですよ!』とハッキリ言わないと」
「つまり、断言しろと」
「手馴れたもんでしょ? 自作の堂々とした宣伝や告知は。今まで散々やってるし」
「とんでもない! noteを更新するのもTwitterで宣伝するのも、ビクビクもんですよ! ……で、肝心の相談なんですが……」


 …………………………


「なるほど、小説のルールを決めておきたいわけですか。でも、いちいち提示しなくてもいいんじゃないですか?」
「逃げを打つというか、読者の善意に頼るような作品にはしたくないんです」
「ぬるま湯は嫌だと。なるほど、それは立派な心がけですね」
「根っこの部分の、アイデア本体はさっき言った通りなんですが、あとは『濁音』と『半濁音』をどうしようかと」
「ノリで、まぜこぜにしちゃってもよくないですか? いつもあなた、ノリで書いてるでしょ?」
「ハイ……まぁいつもはそうなんですけど、今回ばかりはそうもいかないかな、と。ですからこの際、濁音・半濁音は許容しない、使わないという形にしたいんですね」
「非常に厳格に、しっかりしたものにしたい、と」
「太くガッシリした、読みごたえのある短編にしたいんですよ。ルールだけじゃなくて」
「変なことを言いますねぇ。あなた、そのヘンなアイデアを使ってるこの小説、もうだいぶ進んじゃってますよ? 軽薄な会話劇のスタイルで……」
「ほ、ホントだ!!!!」



 …………………………



「まぁ仕方ない。ここまで書いちゃったら、最後まで行くしかないでしょう」
「魅力的な短編になるはずだったんですよコレ……最初はバトルものにしたんですが、文字数が足りなくて」
「無理だと諦めたわけですか」
「面倒ですしね……切り詰めるのも……」
「もういいかとばかりに、このような安直な会話劇になったと」 
「ヤだなぁ、安直だなんてそんな……」
「有言不実行じゃないですか。『太くガッシリとした、読みごたえのある短編にしたい』って言ってたのに」
「読みやすいかなー、って思って……。下手に凝るよりも……」
「楽な方に逃げすぎでしょ!」
「理想的じゃないですか? スッと読めて、アッと驚いて、それでおしまいって短編は」
「ルール云々の相談は何だったんですか!」
「冷静に読み直してください……ほら、濁音も半濁音も使ってないですよ、見事でしょう」
「六行目の『か』が『が』になってますけど!?」
「わっ本当だ! やらかした! でももう、どうしようもないですね! ところで『を』は、どうしましょうか?」
「を、ですか……? って、これを言わせるために質問したでしょ? あなたね! こんな一発ネタを読ませたお詫びを最後に書きなさい!」

「ん~、ここまで読んでいただいた読者の皆様、ありがとうございました。あと、すいませんでした」







「あいうえお作文」
  で書いた会話劇  
【  おわり  】

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