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【連載版】106つ、または107つ、ないし108つのジョー・レアルの生首 45&46

【前回】

●45
「こっちに出たと思ったら、あっちに出る。えー、保安官もその、かなり、目を回したそうですが……」ダラスはつっかえながら頑張っている。
「以前と違って、近頃は馬車やら銀行をやたらと襲ってたしなぁ」爺さんが言う。
「そうそう、そうなんですよ!」それがダラスの助け船になった。「いろいろあって、神出鬼没作戦はなしにして、とにかく荒稼ぎすることにしたらしい。まぁ、噂ではありますがね……」
「昔は善人だったのにねぇ」とおかみさんがしみじみと言う。「今や殺しも平気でやるんだから」
「そうそう……私らもまぁ、褒められたもんじゃありませんが、最近のジョーはあんまりひどいと。そんなわけで、えー、グループの『長男』のジョーを、やっつけてしまおうと思ったわけですな……ところが手配書に、顔がそっくりな次男がいるのを書くのを、忘れてしまったと……」
 なるほど、と俺は思った。まずこの場を収める。首を持ってきた奴らを納得させて帰ってもらう方に話を進めようと、そういうわけか。
「なるほどねぇ。ってことは、このどっちかが長男で、どっちかが次男ってことになるのかい?」
「そうです! その通りで……それでですね、残念ながら、私たちがかけた10万ドルは、長男だけにかけられてるもので……」
「じゃあおれかこのおばさんのどっちかは、運び損ってことになるのか?」爺さんが不快な顔で腰に手を当てた。
「そうだよ! 運び損、首の切り損じゃあないか!」
「で、ですから! 次男の件はこちらのミスでしたので、お詫びに、10万とはいきませんが、それなりの金額をご準備して…………」

「おいあんたがた!!」
 ドアの方で男の声がしたので全員がそっちを見た。
 郵便局員の格好をした、立派な髭をたくわえた中年の男が立っていた。
 手に大きな、薄茶色の布袋を持っている──人の頭くらいの大きさの。
「賞金首のジョーを届けに来たぜ!」

 俺は熱でも計るみたいに額に手の平を当てた。本当に熱でも出そうだった。
 とんだ間の悪さの、とんだお届け物だった。



●46
 郵便局員の男は「へへへ!」と笑って店内に入ってきた。「ビックリしてやがるな! 無理もねえ、こんな朝一番に、賞金首のお届けなんだからな!」
 ダラスの大きな体で、郵便局員の側からは2つの首が見えないようだった。太めの体も案外役に立つ。
「ちょいとアンタ、そこのアンタ」おかみさんがそばにいる奴に尋ねた。「ジョーってのは三人兄弟なのかい?」
 爺さんもウンウン頷きながらそいつを見た。
 これがウエストだったらうろたえていたろうが、そばにいた奴がモーティマーだったからよかった。
 奴は真っ黒い帽子のツバに開いた小さな穴に指をつっこんでからおかみさんを見て、何も言わずに眉を上げて首を傾けた。
 白髪混じりのヒゲに、年齢を感じさせる肌の色合い、それに鋭い目つき。そんな奴が眉を上げて首を少しだけ傾けるので、イエスともノーともとれる態度に見えた。
 おかみさんと爺さんは何とも言えない、納得したようなしていないような顔で頷いた。
 実はモーティマーは、単に無口なだけなのだ。今のだって「さあな?」程度の意味しかない。それがあの顔だと、妙な説得力が出る。

 郵便局員に2つの首が見えていないことを察したブロンド──入り口の一番近くにいた──が、そばにあったテーブルを持ち上げて郵便局員の前に出す。
「奥に行く前に」険しい顔で郵便局員に言った。「ここで一度中身を見せてもらえるかな?」
 首が3つ並ぶ大混乱が起きる前にひとつ、クッションを置くつもりらしい。そのクッションがどれだけ役に立つかわからないが……。
 男はようがすよ、と自信たっぷりに告げて、ジョーは昨日の晩にね、家に忍び込もうとしたとこを俺が……云々と喋りながら、ちょっとだけ奥のダラスたちに不審の目をやりつつ、テーブルの上に袋をゴツン、と置いた。

 ……音が変だった。
 人の肉の音ではなくて、もっと硬いものの音だ。
 ブロンドと郵便局員は一度、「音が変だ」と言いたげに顔を見合わせて、それから同時に袋に目を落とした。
 ブロンドが手早く袋の口を開く。中身を見た。眉間に深くシワが寄った。

【続く】

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