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【連載版】106つ、または107つ、ないし108つのジョー・レアルの生首 43&44

【前回】

●43
「どういうことだい?」
「どういうこったね?」
 おかみさんと爺さんが揃って眉を寄せて、俺たち6人の顔をかわるがわる見つめる。
「どういうこったろうな?」
 許されるものなら俺たちも2人にそう言いたかった。だが俺たちは首を求めた側であり、この状況を考える側だった。
 テーブルの上には、ほとんどうり二つと言っていいジョーの首が、仲良く並んでいた。
 最初のは少し皮がたるんでいて、あとのは頬が削げている……ような気がする。だがそんなものはちょいとしたきっかけで変化するものだ。数日間飲まず食わずで逃げてから死んだ、とか。
 人の顔ってのは、毎日毎時間同じじゃない。寝起きと寝る前じゃ違うし、悲しい時と怒っている時でも違う。
 しかし基礎となる顔は、顔の作りは共通しているはずだ。この2つの首はたるみだの頬だの、まずは無視できそうな部分を除けばまず間違いなくジョーの首だった。
 だが今は、その無視できそうな部分が問題になる。何せそっくりな首が2つ並んでいる。作りものじゃない。本物の生首。どちらも触ったからわかる。
 ダラスがブロンドに近づいて、何か話しこんでいる。内容を当ててみよう。「どういうことだろう?」「わからない」だ。
 モーティマーは怖くないのか、椅子を近づけて美術品の品定めみたいにじっくり2つを見比べている。
 トゥコは俺の後ろのウエストの後ろに隠れて、遠く2人越しに首を見ていた。
「オバケだ」トゥコの呟きがかすかに聞こえた。悪くない考えだが、朝の6時ってことを忘れているし、俺たち6人と女ひとり、爺さんひとりに、この首は確かに見えている。これはオバケではない。
 宿無しの爺さんいわく、この「ジョー・レアル」は、ねぐらにしている町のゴミだめに倒れていたらしい。脇腹から血を流して。
 尻を拭くのにいいと集めて持っていた手配書の顔だった。残酷なことはしたくなかったが、体ごと引きずっては来れない。かと言って10万ドルを見逃す手はない。嫌々ながらねぐらの中にしまってある「いっとうデカい刃物」で首を切って、「いっとうデカい布」で包んで持ってきた、という。



●44
「あんた方さ、あたしにはこの首がそっくりに見えるんだけどね?」おかみさんが言うと、
「そうだなあ、わしにもこりゃあ、同じ人間に見えるんだけどな?」爺さんが言葉を継ぐ。
 まるで娘と父親みたいに息が合っていた。
 と、長くブロンドと話し込んでいたダラスが、おもむろに咳払いをして2人に歩み寄った。
「そうですなぁ! これはとても、そっくりに見えます!」
 育ちのいい人間の口調になっている。学校の先生といった調子だろう。
 ダラスは太ってはち切れんばかりのチョッキの、胸の両ポケットに両手の指を入れて、もう一度エヘン、と偉そうな咳払いをした。
「実を言いますと、これは私たちの手落ちでして……。ご存じですか? ジョーには兄弟がいるんですよ!」
 へぇ! おかみさんは言った。へぇ! 爺さんも合わせた。
 客人が背を向けているのをいいことに、俺は露骨に顔を歪めて、向こう側にいるブロンドに視線を送った。お前、ダラスと何を話した?
 ブロンドは大きな目をグリッと開いてこっちにやってから、小さく首を振った。まぁ、聞いておけ。
「これはあまり知られてないことなんですが、ジョーは兄弟で暴れていたそうで……しかも、顔がそっくりだそうなんですなぁ」
「はじめて聞いたねぇ」おかみさんは腕を組む。
「……俺様もはじめて聞いたぞ」いつの間にか俺の横まで来ていたトゥコが眉を寄せている。「ダラスはどうでっち上げるつもりだ。あいつで大丈夫か?」
 確かに奴は早口ではない。ウソをつくのにも慣れていない。しかも「ジョーには兄弟がいる」なんて頭から爪先まで真っ赤なウソとなればなおさらだ。
 だがトゥコにも、俺たちにもないものを持っている。
「まぁ私も噂で聞いただけなんですが、そのそっくりな顔でもって、神出鬼没の八面六臂、いろんな土地で盗っ人仕事をやっていたそうですよ」
 シンシュツキボツもハチメンロッピも、この中年女と爺さまに通じるとは思えない。だが、それらしさは出る。
「今必要なのはお前の『上手さ』じゃないんだ。なるほどと思わせる『貫禄』なんだと思うんだ」
「…………今は太っちょの奴が主役か」トゥコは口をへの字に曲げた。

【続く】

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