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ペルソナ

開業セミナーに行った時の事。
講師は自分がどんな仕事をしていきたいか。その具体的なイメージを作る事の大切さを説いていた。その一つにペルソナがあった。

 誰にそのサービスを届けたい?

 繰り返しだされるその質問は、例えば30代女性。キャリアウーマン。仕事に疲れていて…ではなく、ずばりその人。それがこれからの活動の原点になる。家族や親せきは勿論のこと、芸能人が思い浮かべばその芸能人の名前。だれでもいい。頭に浮かんだその人の名前を書く。その対象がペルソナ。そしてなぜそのサービスを届けたいと思ったか。そのサービスをどんなふうに提供するかを考えていく。

 私が思い浮かべたのはデイサービス入職当時にいた利用者HYさん。体が曲がってしまい、腰を痛めていた。でも頑張って歩いていて、私に「痛いけどね、お医者さんに診てもらっても、年だからの一言でシップを出されて終わり!やんなっちゃう」とボヤき、私がアロマセラピーの勉強をしていると知ると、「お金ならいくらでもあるから、一時間でも2時間でもさすって。だから早く仕事にしてちょうだい」と応援してくれていた。残念ながらその約束は果たせなかったけれど、誰に届けたいと言われたら、真っ先にその人をイメージする。
 私が体をゆったりとさすると「本当に気持ちいいのよ」とうっとりしていたHYさん。体の強張りが取れていくのが手の平を通して伝わってくる。特に強くする必要もない。ゆっくりとゆっくりと優しく。Mテクニック(タッチケアのメソッドの一つ)のDVDでDr.ジェーンバックルが繰り返し「りら~っくす、りら~~っくす」と言いながら実技を紹介するのだけど、頭の中でそう唱えると本当に優しいタッチになって、相手を癒す事が出来るってその人を通して教わった気がする。

うっとりするような タッチケアを HYさんへ

 タッチケアやアロマテラピーでのトリートメントでは根本治療をしようなんて考えない。あくまでも本人の力を支え、押し上げて、整えるだけ。それを続けていくうちに運が良ければ根本原因が改善していき、快調へと向かう。そういう物だと思っている。そう考えると高齢者へのセラピーには限界がある。時間的にも体力的にも。だけどメンタルはきっと限界がない。どんな状態でもその人には心があって、タッチケアを行う事でコミュニケーションをとることが出来る。次第にそれが気持ちよいと思う事で緊張がほぐれ楽になる。そうやってその方のQOL向上につながるのなら、それはとても喜ばしい事。

 ある時HYさんが私の腕をゆっくりとさすり、その気持ちよさに眠りそうになった。仕事中なのに。「めっちゃ気持ちい〜」って言うとHYさんが「いつもあなたが私にしてくれてる事。私も触れて気持ちい〜の。ふふふ。」って笑ってて、その空間ごと柔らかくなったのを感じた。タッチケアの真髄を体感させてもらった気がする。だって、HYさんは別にマッサージを習ったわけじゃない。ただひたすらニコニコと私の腕をさすっていただけだ。90過ぎた女性のゆったりと柔らかな感触。

 タッチケアにはテクニックも大事、力も知識もとても大事だけど、気持ちがなによりも一番大事。

 HYさん、あの時本当にうっとりしたんです。あのタッチには一生勝てない(笑)。そして触る事が施術側のケアに繋がることを教えてくれて、本当にありがとうございます。今なら少しは腰痛緩和の助けができたかもしれない。でもご家族に納得してもらえるかなぁ。なまじ職員なもんで、提供するサービスや施設の方針とかの関係があるから、その点がやりづらいね。

 今でもHYさんをイメージしながら練習するときがあります。

 伏臥位は難しいから、側臥位からかな?腰は少し多めに触っておきましょ。気持ちいいですか?圧は極弱く。だけどきちんと触る。そしてゆったりとしたスピードで。

 天国でも笑ってくれているかな?うっとりしてくれるかな?

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