バイト先のお客さんと付き合った話 4 謎の行動

あの数日後、またバイト中にレジで生田さんの接客をした。

生田さんはお店に来ると毎回、連続物のアニメのDVDを1本だけ借りて行く。

大体のお客さんがまとめて数本借りて1週間後に返しにくるスタイルである中、生田さんのように1本だけ借りて翌日返しに来て、そしてまた1本借りるというサイクルを毎日繰り返しているお客さんは珍しかった。
そういった意味でも彼は印象的なお客さんだった。

生田さんは毎日お店に来ているらしい。
私が休みの日も必ず来てDVDを1本借りていくのだという。

同僚たちにファミレスで話されてからちょっとだけ彼を意識し始めていた私は、接客もぎこちなくなってしまった。

うまく笑えないし声が変に上擦ってしまう。

それを察したのか、いつも無表情である彼が明らかに焦ったような絶句したような泣きそうなのか、何とも形容し難い表情をして下を向いていた。

お互いの間に変な空気が流れているのがわかった。
まともに口も聞いたことがない上に特に何のやり取りもしていない人なのにどうしてこんなことに。

その空気にさらに動揺した私は、会計を終えた後やたら早口になり、半ば追い払うように接客を終わらせてしまった。
そんなつもり全くなかったのに。

すると生田さんが

「あの…えっと…」

と言った。

どうしたのだろうと思って彼を凝視したが、彼は目を瞑って下を向いたまま顔を赤くしていた。

「どうかされましたか?」

「あの…いや…」

そう言って彼は黙ってしまった。
そしていつものようにペコペコし、両手でレンタルDVDを受け取りそのまま内股でパタパタと走って店を出て行ってしまった。

一体どうしたのだろう。

その光景を後ろから見ていた後輩の女の子がニヤニヤしながら

「何があったんですか」

と聞いてきた。

「いや、何もないんだよそれが」

「またまた〜嘘ついちゃって。めっちゃ顔赤くして走って出て行ったじゃないですか」

「いや、本当に何もなくて。なんであんな態度取られたのかわかんないんだよ私も」

そうしてその日のバイトの時間は平凡に過ぎて行った。

22時になった。
バイトの時間が終わり、入れ替わりで22時からのシフトの方々がゾロゾロとやってきた。

その中にDQN先輩もいた。

「おはようございます」

(どうでもいいけど入れ替わりの人たちとの挨拶は昼でも夜でも必ず「おはようございます」である)

「あのこ、生田さんが店に来た時変な態度取ってなかったか」

「え、なんで知ってるんですか」

「ああ、やっぱり…いやほんとにすまん、あれは俺が悪い」

「どういうことですか?」

周りの同僚たちがニヤニヤしながら私とDQN先輩の会話を聞いているのがわかった。

「こんなにみんな見てる中じゃ言えん。バイト終わったらメールするわ。じゃあお疲れさん」

みんなは

「なんだつまんないのー」

と言っていた。

私は何を言われるのか不安なまま帰路についた。

先輩からのメールを待とうと思ったが、先輩のバイトが終わるのは深夜2時。

当然待てるはずもなく、私は不安な気持ちを抱えたまま眠りについた。

続く

関係ないけど今日は仕事帰り仲良しのお姉さんと飲んできた。初めて職場の人に自分の本当の生い立ちを話した。優しく聞いてくれてちょっと泣いちゃった。明日からも楽しく生きよう。

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