バイト先のお客さんと付き合った話 14 その後と再会

震災をなんとか乗り越え徐々に街も復興し始めた2012年の春。

大学卒業と同時に生田さんを振った。

決して嫌いではなかった(というかむしろ好きだった)ので、別れを切り出す時はものすごく泣いたし生田さんも案の定号泣していた。

原因は色々あった。

生田さんの泣き虫でめんどくさいところにうんざりしていたのが一番の原因だが、一向に上がらない生田さんのお給料や生田さんの家のちょっと複雑な事情によるゴタゴタを見ていて将来に対する不安もあった。

また、私は私で教員採用試験に落ちたことにより自信を喪失していた。
生田さんはあんなに応援していてくれたのに、と申し訳なかった。
頭が悪すぎて夢を叶えられなかった自分のことをすごく嫌いだった。

生田さんは私に教員になってほしかったはずなのに、と思い込んでおり、教員になれなかった自分は別れるべきだとも思っていた。

別れたことを報告すると、バイト先の同僚たちも友達も街の人たちも、みんなが悲しんでくれた。
何なら当事者である私よりも、みんなの方が悲しそうだった。

別れてからは一度も連絡を取らなかった。

時は流れ、2017年の年末。

嫁いでから初めての帰省。

バイト先のみんなで集まって忘年会をした。

みんなの近況報告やらバイト時代の思い出など、あの頃と同じように大騒ぎして涙を流すぐらい笑った。

忘年会を終えて店を出ると、なんと生田さんがいた。

「あのこちゃん?!?!!!!!」

「え、生田さん?!」

同僚の男性たちの計らいだった。

私が別れた後も、私の兄や同僚の男性たちは変わらず生田さんに髪を切ってもらっており、今でも仲良しでみんなでよく飲みに行っているのだという。

この後は同僚男性たちと生田さんで飲みに行くのだそうだ。

生田さんと私をサプライズで会わせてやろうと思ったらしかった。

私はなぜか顔を見た瞬間泣きそうになってしまった。
生田さんも私の顔を見て泣きそうになるのを堪えているのが分かった。

みんなが外してくれて、飲み屋さんの前で2人で並んで話した。

生田さんは年齢を重ねたことで渋さが増して、あの頃とは違ったかっこよさがあった。

近況を聞いたところ、生田さんは開業し個室のメンズヘアサロンのオーナーをしているそうだった。
相変わらず頑張っているんだなあと思った。

入籍した自分の近況を話していいものかと悩んでいたら、

「あのこちゃん、みんなから聞いたよ。結婚したんだってね。おめでとう」

と言われた。

途端に胸が苦しくなり涙が出そうになった。

悟られたくなかったので誤魔化すように

「誰が言ったの?最低」

とちょっと怒ってみたら

「同僚の子たちとお兄ちゃんだよ。あのこちゃんに何かあったら、みーんな俺に報告してくるんだもん」

と言い、生田さんは笑いながら涙を流していた。

それを見て私も釣られて結局泣いてしまった。

「幸せになってね」

「うん。生田さんもね」

そう言ってお互い泣きながら笑い、握手して別れた。

最後に会ってから今年で7年経つ。

相変わらずニコニコして優しくて泣き虫でメンヘラなのかな。
そろそろ結婚したかな。

どれもこれも同僚や兄に聞けば一発でわかるのだろうけど、あえて聞かないでおく。

めんどくさいところもひっくるめて全てが楽しくて愛おしかった、そんな恋の思い出。

終わり

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