頑張るタイプの趣味
私は歌うことが好きです。
しかし、例えば1時間の自由時間があって、すぐに「よーし歌を練習するぞ!」とはなりません。
テレビも見たいし、
気になるYouTubeの動画もあるし、
お菓子を食べてゴロンと横になっていたい……
そうやって他のことに気を取られているうちに1時間経ってしまうことがよくあります。
趣味という割に、「歌をするぞ!」とエンジンをかけるまでには、そこそこやる気が必要なのです。
好きなことに時間を費やすだけで、なぜエンジンが必要なのだろう?
そして、なぜわざわざやる気を出してまで続けているのだろう?
そこで考えたのが、趣味は趣味でも、歌は私にとって頑張るタイプの趣味に分類されているのではないか、ということです。
■やめようと思えばやめられる趣味たち
もともとが一人っ子のインドア派であり、お絵かき、ピアノ、ゲーム、読書……とたくさんの趣味を持っていました。
それらに費やす時間はとても楽しい!
ただし、私には致命的に欠ける部分がありました。
「向上心」です。
ペンタブを買って絵を描くものの、「人体の構造や風景画を練習してもっと描けるようになろう!」とまではいかない。
ピアノを習ってアレンジなどして楽しむものの、「もっと上を目指してさまざまなジャンルやコード進行を覚えよう!」とまではならない。
今ある実力で楽しめたら十分だったのです。
それに気づいたのは、引っ越しでピアノを捨てたときです。
引っ越しした初日は「もうピアノが弾けない生活なんて考えられない!」などと思っていたのですが、1カ月もすればピアノのない生活に慣れてしまいました。
ピアノを弾けないからといって手が震えるようなこともなく、案外フツーに生活できたのです。
本当にピアノが好きでたまらなかったら、1日5分でもいいから鍵盤に触りたい!となるのでは……?
そこで思い至ったのが、向上心の不足でした。
その場を楽しめたら十分なので、一つ欠けても他の趣味で穴を埋めることができてしまう。
結局、趣味たちはどれだけ長年連れ添ってもやめようと思えばやめてしまえるレベルだったのです。
■歌のオーディション!からの挫折
ところが、歌はそうはいかなかった。
いや、もともとは他の趣味と同じく「やめようと思えばやめてしまえる」レベル。
むしろ「やめてしまった」の部類に入ったものでした。
合唱部を卒業してからは毎日発声練習をするような時間もなくなり、せいぜい友人とたまにカラオケに行ってストレスを発散する程度。
ところが、たまたまカラオケの機械から応募できる歌のオーディションで、1次審査を通過したのです。
電話がかかってきたときは飛び上がりました。
もう完全にお祭り状態です。
自己PRの練習をした方がいい?などと思ってしまう次第です。
そして2次審査!
結果は惨敗!
ここで「もっと歌がうまくなりたい!」と思ったことがきっかけとなりました。
ちょうどそのころは職場と家の往復をする日々で、何か新しい風を吹き込みたかったということもありました。
どうせなら専門のところでみっちり鍛えてもらおう。
そうしてボイストレーニング教室の扉をたたきました。
そこでは、私の歌の世界を広げる出会いがたくさんありました。
■発表会で学んだ「人に聴いてもらう」ということ
はっきり言って、今までの歌への姿勢は「手抜き」でした。
人に聴いてもらうとはどういうことなのか、きちんと考えたことがなかったのです。
ただ歌ってスッキリしたい、楽しい、「上手だね」って褒めそやしてほしい……
そういう自分の欲求を出す手段が歌だったのです。
しかし歌を学ぶ中で、私が歌を通じて人に何を伝えたいのかを真剣に考えるようになりました。
特に印象に残っているのが、教室が主催する歌の発表会です。
その回で私が選んだのは「EGO-WRAPPIN'」の曲。
今まで挑戦したことのない、ノリの激しめな曲でした。
実はその前の年の発表会で「EGO-WRAPPIN'」を歌っている人がいて、かなり雰囲気のある歌に完全に引き込まれたのです。
私もあんな風に誰かに歌の楽しさを届けてみたいな~と思い、YouTubeで「EGO-WRAPPIN'」の動画を探し回るうちに、すっかりこのグループが好きになってしまいました。
彼らは、歌や演奏が上手なのはもちろんですが、何といっても「ライブに来ている人たちを楽しませてやろう」という熱がすごい。
この現場にいたら絶対楽しい!これを発表会でやりたい!
ということで、新たな挑戦曲が決まったのはよかったのですが、まあ大変。
なにせ今まで合唱で聖歌を歌っていたような人間です。
畑が違いにも程があるというもの。
発表会に向けて教室で指導を受けると、
「ここ直してね。ここはもっとこうだね。この歌い方は違うかなあ……」
と、1回目から出るわ出るわアドバイスの数々!
そこで、仕事終わりにカラオケに通いつめて練習しました。
これは楽しいだけではありません。
やればやるほどプロとの差を突き付けられますし、1歩近づくだけでとてつもない努力が必要です。
いや、そもそも近づけているのかも分かりません。
練習して「よしマスターした!」と思ってレッスンに向かえば、「そこ違うよ」と言われてやり直すこともしばしば。
また、仕事終わりのクタクタな状態でカラオケに通い続けるのも大変です。
ああ、やめたい……
今日はお布団に入ってゴロゴロしたいな……
でもな……
と葛藤し、それでも踏みとどまってエンジンを掛けていました。
家では「EGO-WRAPPIN'」のライブ動画を見て、どこで盛り上げるのか、どんな風に手や視線を動かしているのか、など研究しました。
ご飯を食べながら動画を見て、
風呂に入って髪を乾かしながら動画を見て。
最後の方は夢の中でも練習していました。
もはや何のためにやっているのか自分でもわからなくなりつつ、そんなこんなで本番。
いざ出番が来ると、息は乱れ、手は震え、全く力が出せる雰囲気ではありませんでした。
それでも、やってきたことを懸命に表に出そうと努力しました。
1番のサビ終わりに、ふと前列の人たちと目が合いました。
笑顔で、とても楽しそうに手拍子を打ってくれていたのです。
……あっ私の歌を喜んでくれている!
そう思った瞬間、脳内がパチパチとはじけました。
動悸がするし、手も震えているけれど、それでも楽しい。
この人たちに聞いてもらいたい!という一心で歌い切りました。
あっという間の5分間でした。
正直、後で録音を聞き返すと、完全に素人の頑張りレベルです。
緊張でたまに声がひっくり返ったり、振り付けに気を取られて息が乱れていたり。
嘘だろ、ここの音外してんの……などなど。
けれど、この発表会は私にとってかけがえのない宝物になりました。
「人に聴いてもらえる」ってこんなに楽しいんだ!頑張ってよかった!
私は、歌を頑張った自分が好きになりました。
■頑張るタイプの趣味は、大変だけど楽しい
私にとって、歌は頑張るタイプの趣味です。
他の趣味たちと違って、やる気や根気が必要です。
しかも、必ずしも楽しい時間を提供してくれるわけではありません。
そのほとんどは他者との差に打ちのめされていたり、結果が出ずに苦しんでいたりと、修行のような時間です。
ただ、頑張ることで自分を好きになれる趣味でもあります。
そして、その達成感は一度味わうとやみつきになります。
だからこそ、一生続けていきたいと思っています。
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