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高級豚肉【ショートショート15】

ジュウウウ


「…美味い、美味すぎる!!!」

『そうだろ!裏ルートでしか手に入らない、世界一高級な豚肉”アミティー種”だ、味わって食えよ!』

「どういう育て方をしたらこんなに美味くなるんだろう、今まで色んな試行錯誤をして美味しさにこだわってきたけど、ここまで美味いのは本当に初めてだ…」

『アミティー種は一見普通の豚だが、ある性質があってな。』

「なに?それ?」

『アミティー種が美味くなる条件は2つ、1つは1人で育てること。もう1つは、より懐かせること。』

「懐かせる?」

『そう、この種類は育てた者に懐けば懐くほど美味くなるんだ。普通に育てたアミティー種の味は普通だし値段も高くはならない、条件が揃って初めて高級種になる変わった豚ちゃんなのさ。』

「面白いね。おじさん、それ僕も育ててみたいな。」

『やめといた方がいいぜ。色んな意味で難しいんだよこの種は。』

「懐いて初めて高級になるんだから子豚自体は安価で手に入るんだよね?」

『ダメだ。聞こえてねえ。』


こうして僕は、おじさんからアミティー種の子豚を買った。実際には結構高かったが、おじさんには値段がついてから払ってくれればいいと言われた。
小さな養豚場の息子として生まれ、幼い頃から豚とは触れ合ってきたし、育て方も熟知している。難しいとは言っていたが、問題はないだろう。

このアミティー種を見事育て上げ、一攫千金… そして、養豚場の規模をもっと大きくするんだ。

絶対に美味しくすると約束した上で、おじさんにはあらかじめ買い手を見つけて貰った。美食家としても知られる海外の富豪だ、いくらでも出すと言っているらしい。
楽しみで仕方なかった。

イノルガと名付け、飼育を開始した。


約半年育てて、色々わかったことがある。

怖がりなこと、恥ずかしがりなこと、喜びや悲しみが態度に出まくること、食いしん坊なこと、足が遅いこと、それなのに一生懸命僕についてくること、僕の毛布が大好きなこと、僕のサンダルも大好きなこと、僕が姿を消すと大声で鳴くこと、でもすぐに疲れて眠ってしまうこと、、、

イノルガは大きくなっても無邪気だった。イノルガは大きくなっても僕にベッタリだった。イノルガは…


ある日、養豚場に10人ほどの訪問者が来た。

買い手だった。奥からおじさんがこちらに走ってきた。

『アミティー種の件はどうなってるんだ?待ちきれないから直接話をしに行くって言って来られたんだ、一応俺も止めたが聞かなくてな。何があったんだ?』

1ヶ月前ぐらいからずっと連絡は来ていた。買い手と約束した期日はもうとっくに過ぎている、待ちきれないと言うのもわかる。

だが僕は、イノルガを渡したくはなかった。大金を貰ったって、食べられてしまったらイノルガと過ごした時間は戻ってこない。
そんな事実を受け止められなくて、僕は取引の日を先延ばしにし続けていた。

それぐらい僕はイノルガに対して愛情を持ってしまっていた。だからこそイノルガは僕を信頼して懐いてくれていたのだ。

そんなイノルガを簡単に渡せるわけがなかった。

『アミティー種はどこだ?とりあえずモノを見せてやれ。』

まずい。

僕はイノルガを隠そうと考えた。しかしそのとき、いつものようにイノルガが僕の元に走ってきてしまった。

パチパチパチパチ…

買い手とその取り巻きから拍手が起こる。

『かなり懐いているな!焦らした上に目の前でこんな姿見せたんだ、こりゃとんでもねえ額になるぜ!交渉は任せろ、お前はただソイツとじゃれあってりゃいいからよ!』

「待っておじさん!」

『なんだよ!今売らねえと次はねえぞ!』

「…もういい、金はいらない。イノルガと暮らしたい。」

『何言ってんだよ!これは全部お前がやりたいと言ったことなんだぞ!俺は止めたのに、聞く耳すら持たなかったじゃねえか!』

「それはそうだけど!イノルガは僕がいないと生きていけないんだ…!」

『食われんだからそんなの関係ねえよ!ほら!さっさと渡せ!』

「イヤだ!!!!!」

僕はイノルガを抱きしめ、誰にも渡すまいと覆い被さった。

パチパチパチパチ…

そんな僕らの姿を見た買い手たちはまたも拍手をした。

『貸せ!パフォーマンスはわかったから、さっさと引き渡せ!気持ちはわかるが、これは全部お前が決めたことなんだからな!』

おじさんに引き剥がされ、イノルガは買い手の元に連れて行かれた。

イノルガ… ああ… ああ…


もうダメだと思ったそのとき、イノルガは買い手の手から離れ僕の方へ走ってきた。

何も分かっていないイノルガはいつものように僕と遊びたいと思っているのだろうか、嬉しそうな感情が態度に出ているのがわかる。

[すばらしい!]

パチパチパチパチパチパチパチパチ…

買い手たちはスタンディングオベーションで拍手を送った、涙を流す者もいた。

イノルガを逃さないように縄を持ってきたおじさんがホッとした顔で言った。

『おい、話はついたぞ。おそらく過去最高の額だ。まあ、悲しいだろうが仕方ねえ。コイツの分まで養豚場をデカくしてやれよな。』

縄で縛られたイノルガは買い手達の車に乗せられ、エンジン音と共に消えていった。

僕はしばらく動けずにいた。



ジュウウウ


2人の男が肉を焼いている。1人は皿を、もう1人は札束を手に持って。

[いやあ、美味い。美味すぎるなあ。どれだけ大金を出してでも手に入れたい味だよ、本当に。]

『結局金もいらないって言われたんで、こっちはこっちでまた利益出ちまいました。しかしあんまりやりすぎるのもよくないっすよ〜、恨まれて殺されたらどうするんですか?』

[ワシが食べられたりしてな!ハハハハ!]

『まあ、また狙えそうなやつがいたら言ってください。今回も上質なのが入ったので、これ食わせて子豚渡しますんでね。』

[もちろんだ、世界中どこからでも探し出してやる。純粋な若者は、アミティー種を懐かせるのにピッタリだからな。しかしいい商売見つけたな、お前も。]

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