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FUTOKO(不登校)

気付くと 一頭のトンボが 運転席側の窓のパッキンにつかまっていた
クルマのスピードを少し上げると カラダを揺らしながら 
そこにとどまろうとする
さらにスピードを上げると いっそうカラダを震わせ ふんばっている

時速40㎞に逆らうその手足を離せば いとも簡単に自由の身となり
秋空に飛んで行けるだろうに 

しかし 彼の恐怖心は それを許さない

私は アクセルをゆるめ そのカラダの揺れに合わせながら 車を進める
彼を 我が家にいる《孵化する前のサナギ》に 会わせたくなったのだ

(あぁ その角を曲がれば もうすぐ我が家だ)
減速し 歩行者がいないことを確認しながら ゆっくりと車を左折させた

ゆっくりと ゆっくりと

私の注意がそがれた その一瞬の隙をついて 
彼の姿は そこにはなかった

それこそが 彼が待ち望んでいたスピードだったのだ

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