オリエントが第二の故郷になる。『天は赤い河のほとり』
古代ヒッタイト帝国(現トルコのあたり)を舞台に、主人公ユーリが強く気高く生きる姿を描いた不朽の名作で、男性も女性も楽しめる漫画です。
「昔っぽい苦手な感じの絵」だという理由で読んでいない人は今すぐに考えを改めたほうがいいです。損してます。
1巻読めば絵には慣れるし、むしろ「この登場人物たち、一番美しいんじゃないか」って思うようになります。
生涯読み続けたい大好きな漫画です。
少女漫画という括りだからか、内容に知名度が追いついていない気がするので、魅力を語っていきたいと思います。
気高く聡明な主人公
自分が読んだ全漫画の中の、一番好きなキャラクターランキング圧倒的1位なのが、主人公ユーリです。
『天河』に出会ったのは中学生の頃。
そのころ、恋愛のことしか考えていない少女漫画の主人公達に苦手意識を持っていました。
何かの目標に向かって仲間と旅をしていくような少年漫画のほうが自然な気がしたし好きだった。
ユーリは、初めて出会った『聡明な』少女漫画の主人公でした。
はじめは、守られたり泣いたりしている普通の女の子なのですが、3巻を読み終えるころにはすっかりユーリに魅了されます。
聡明さと気高さと内面からにじみ出る美しさを兼ね備えた女の子であるユーリは、まさに理想そのもの。
そして徐々に、老若男女を圧倒するような気高さを纏っていきます。
強烈なカタルシスでストレス解消
主人公ユーリに感情移入して読むと、強烈なカタルシスを感じられます。
中学生だった自分には、刺激が強すぎるのではないかと思うほどの高揚感がありました。
ある程度カタルシスに慣れている人なら、もしかしたらそこまでの中毒性はないかもしれません。でも数ある漫画の中でも、カタルシス度は上位だと思います。
男性が読んでも、同じように感じるのかが気になるところですが、キラキラ系の恋愛少女漫画よりは断然、抵抗なくストーリーを楽しめるはずです。
自分は違和感なく異性の主人公にも感情移入して読みますし、”少女漫画だから”と敬遠するのはもったいない作品だと思います。
スケールが大きい
普通の少女漫画の舞台のほとんどは学校ですが、『天河』の舞台は国です。
国同士の戦いや内紛、政治的な駆け引きなど、主人公達の関わる問題は高度かつ複雑で、少女漫画の枠には収まらない壮大な物語で、何度でも読み返したくなる。
そんな中、ヒーローの後ろに隠れるのではなく、臆せずに立ち向かっていくユーリの姿はとてもかっこいいです。
リアルな描写
生活の様子や道具などが細かく描写されていて、ヒッタイトの風や匂いを感じられるくらい、リアルに想像を膨らませながら読み進めました。
ヒッタイトが好きすぎて世界史を選択したくらいです。
『天河』は、そのへんのぬるい少女漫画とは違います。
主人公は、普通少女漫画でそこまでさせないでしょっていう目に何度も遭う。
残酷な描写やショックな別れも容赦なく描かれています。
それが物語にリアリティを持たせ、読者の感情を掻き立てる最高のスパイスになっています。
少女漫画というよりは少年漫画に近い?
この作品には、数々の魅力的なキャラが登場します。
美形で賢くて有能だけど、どこか寂しそうな王子の破壊力は言わずもがなですが、、
キャラたちは、いい面もあるし悪い面もある一人の”人間”として描かれています。
はじめ悪者に思えたけど、実はそうじゃなかったり、いい人だったのに道を踏み外して後悔したり。血肉の通った人間として活き活きと描かれている。
そして、同じ目標を持つ同士達が命を懸けて戦う様は、どちらかというと青年漫画や少年漫画と近いような気がします。
なぜか懐かしい
石の街を吹き抜ける乾いた風の感覚や、息をのむ夜空の星の美しさ。
この作品を読んでいると、まるで自分が体験していたかのように思え、なぜか懐かしい故郷を思うような気持になります。
読んでいなくても、なんでもない瞬間に、ふと『天河』のことを思い出します。そして数年おきに何度も読み返しています。
視覚以外の感覚を呼び起こす この作品は、紛れもない名作だと思います。
おわりに
女子として人並みに憧れていた”かわいい、モテる”よりも、”自分の意志でものごとを考えられる人間になりたい”と思うきっかけになりました。
人生観を変えるほどの強い力が宿っている作品です。
よわよわしくて守ってもらうばかりじゃない、強くて聡明な女の子 ユーリの物語は、これからもずっと読み継がれていってほしいです。
最後までお読みいただきありがとうございました。